鍵を失くした原始人は、一心不乱に石と大根を振りかざす(再)

<起>

この日乗ってたバイクは名も無き黄色いママチャリ。
180馬力でもマウンテントレールでもカーボンフレームでも無い、ただの名も無きママチャリ。
電動アシストですら無い、ただの黄色いママチャリ。
ロードバイクのタイヤ代くらいにちょい足す程度で買えるお求め易い黄色いママチャリ。

その黄色いママチャリを走らせてると、ピロリロリーンと掛かってきた電話。
何だろう?
出てみると、知り合いの奥様から。
何度も自宅の庭で出来た野菜を頂いてる奥様だ。
旦那さんの運転する車に乗ってた時、すれ違い様に黄色いママチャリをキッコキッコ漕いでる私を見つけて、電話してくれたみたい。
すぐに車で追いつくから、そこで自転車停めてちょっとだけ待っててよと。

<承>

この日は大根。
庭で大根が一杯採れたから持って帰れとの有りがたいお言葉。
『余り大根好きじゃ無いんですよ』
なんて事は言わない。

『大根なんかよりも鶏とか鴨とか鰤を育ててくださいよ』
なんて事も言わない。

ママチャリをそこらに置いて、車に乗せてもらって大根のお宅へと。
自転車をそこらに置くなよって?
ああ、そうっすね。
はい。

ドン!
と積まれた掘りたて大根を前に、好きなものを好きなだけ持って帰りなさいと、奥様。
出来たら10本くらい持って帰ってくれないかと、そんな顔してる奥様。
なんせそこらじゅう大根だらけなんだから。
もうちょっと考えて育てりゃイイのに、なんてのは余計なお世話な話だけども。
ブラックタイガーでも養殖したら良いのに、なんてのは無理なお願いだけど。

10本も持って帰っても仕方無いので、お言葉に甘えて1本だけを頂く事に。
もっと持って帰れ光線を合気道師範のような身のこなしで華麗に受け流し、1本だけを頂く事に。

わざわざ、また車で送って頂いて黄色いママチャリの元へ。
丁重にお礼をして、再び我が黄色いママチャリの元へ。
大根一本にガソリンを大量に使わせスマンかった。

その時。
悲劇はその時起こった。
自転車の鍵が無いと言う悲劇が。

<転>

恐らくは、奥様宅で落としたと思われる。
ポケットの中にも無いし、自転車の近くにも落ちてない。
恐らくは奥様宅の庭、もしくは乗せて貰った車の中に落としたような気がする。
多分。
記憶に無いけど多分そうだと思う。
記憶に有ったらカギ失くしたりしないさ。

無い無いと騒いでてもどうにも成らないし、かと言ってJAF呼んでも呼ばれたJAFが困ってしまうだろう。
でも、先程の大根夫人に電話するのはちょっと気が引ける。
車に乗せて貰い、大根を貰い、そしてまた送り届けて貰ったばかり。
貰ってばかりで、さらに鍵持って来て貰うのはやっぱり気が引ける。
と言うか、なんか格好悪いから嫌だ。
だから自力でこの窮地を脱する手段に打って出たのだ。

それは石。
近くの植え込みに転がってた、サツマイモくらいの石でブン殴って鍵を壊す作戦。
流石に今から奥様宅へ歩いてママチャリの鍵探しに行く元気は無い。
家や車や貞操帯の鍵なら頑張って探すかも知れないけれども、まぁママチャリだしぶっ壊してやろうって事に。

私は、サツマイモ大の石を手に、自転車の鍵へと叩き下ろした。
フロントフォークに付いてる玩具の鍵目掛けて。
ちなみにアレ、前輪錠って言うらしい。

ともかく石を叩き下ろしたのだ。
まるで原始人のごとく。
ンヌッホ!!
と、雄叫び上げながら。

ウパーッウパーーッ!!

と叫びながら

オレ、カギ、コワス

と、断片的に単語を並べながら。

幸いにして、私は意外と器用な人間だったりする。
釘も打てるし、薪割りも出来るし、鰤の頭だって割れる。
自転車のカギをサツマイモ石で叩き壊す等造作も無い。
フォークを叩いたり、或いは空振りしたり、ついうっかり野菜ソムリエの家の窓をわざとブチ割ったりはしない。

ともかく、鍵を叩き壊して、再び黄色いママチャリ号に乗り家路へと向かったのだが、一つ大きな、そしてとても嫌な予感が一つ脳内を駆け回った。
お巡りさんに見つかったら、なんか凄く面倒な事に成りそうだと、そんな予感が一つ。

鍵が叩き壊された、どう見ても盗んできたような見た目の自転車。
どう見ても自転車泥棒。
しかもカゴには抜いたばかりの大根まで。
鍵が破壊された自転車のカゴには、無為造作に突っ込まれた土だらけの大根まで。
下手したら大根泥棒の疑惑まで掛けられるかも知れない。
土付いたままの抜きたてホヤホヤの大根をカゴに入れてるんだから。

やばい。
うん、非常にやばい。
こりゃ逮捕されてもおかしくない状況。
でもどうせ捕まるなら、もうちょっとマシな罪状で捕まりたかった。
CIAをハッキングしたとか、大統領をブン殴ったとか、なんかそんなので逮捕されたかった。
ママチャリ泥棒に大根泥棒って、それは余りにダサ過ぎる。

そんな懸案を抱えながら鍵を破壊した黄色いママチャリに乗っていると、前方に黒い制服を着た二人の男が目に入ったのだ。
黒い制服を着た二人の男の姿が。
あれは...もしやポリスメン?
まさかこのタイミングで!
ク....

逃げるか?
それともヤルか?
やられる前にやってしまうか。
それしか無いか。
やはり仕方無いか。

私はかごに挿した大根に手を伸ばし、静かに黒い制服の男達へと近づいて行ったのだった。

オレ、ダイコン、ブンナグル

カタコトで、断片的な単語をわざとらしく並べ、そうつぶやきながら、私は静かにカゴに挿した大根に手を伸ばすのだった。

<結>

良く見たら道路工事のガードマンだったので、特に大根振りかざして荒ぶる事も無く家へと辿りついた。
ふ...ガードマンめ、命拾いして良かったな。
私の天翔龍閃を食らわなくて良かったな。

ガードマン、ダイコン、ヨカッタ

そうわざとらしくカタコトでつぶやきながら、ガードマンの横をキッコキッコ濃いで帰る私なのだった。
とある、大根の採れる時期の小さな出来事。

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