モーターサイクルレースしか見た事無い人にお送りするツール・ド・フランス最低限の知識

2016年7月8日

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7月2日より始まる自転車レース最大のイベント、ツール・ド・フランス。
MotoGPやSBK、全日本ロードレースしか馴染み無い人には、いまいち何やってんだか解らないサイクルステージレースの見方をさらっと書いてみようかと思う。
細かい事はともかく、最低限の知識は持っておけば、まぁ大体オッケーだ。

1.ステージレースとは?

1日で終わるレース(ワンデイレース)に対し、何日も基本的に毎日連戦する自転車レースの事。
日本最大のステージレースは8ステージで行われるツアーオブジャパン。
そして、このツール・ド・フランスは21ステージ。
途中2回の休息日を挟み、23日間で行われる。

2.勝敗

速い人が勝ち、遅い人が負ける。
それは当然なのだが、サイクルステージレースにおいては単に一番速い人だけが勝者、と言う訳では無い。

■総合優勝■
21ステージ(実質20ステージ)の合計タイム(タイムボーナスの減算含む)が一番短い人が勝者。
前日のステージまでで、合計タイムが一番短い人は黄色いジャージ(マイヨ・ジョーヌ)を着て翌日のステージを走る。
なお、最後の21ステージは総合争いはしない。

■ステージ優勝■
各ステージ毎に最も速かった人が勝者。

■ポイント賞■
主に平坦なコースに設定されているチェックポイント、或いはゴールを上位で通過し、より多くのポイントを獲得した人が得る。
前日のステージまでで、最も多くのポイントを獲得した人はグリーンのジャージ(マイヨ・ヴェール)を着て翌日のステージを走る。

■山岳賞■
山頂に設定されたチェックポイントを上位で通過し、より多くのポイントを獲得した人が得る。
前日のステージまでで、最も多くの山岳ポイントを獲得した人は水玉のジャージ(マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ)を着て翌日のステージを走る。

■新人賞■
25歳以下のライダーで、総合タイムが最も短かった人が得る。
前日のステージまでで、最も多くの山岳ポイントを獲得した人は白のジャージ(マイヨ・ブラン)を着て翌日のステージを走る。

3.レース展開の傾向

SBKなら概ねシーズン通してカワサキの2人とドゥカティとの戦いが毎度の傾向。
MotoGPなら余程イレギュラーな状況にならない限りは、概ね毎回ホンダとヤマハ+ドゥカティファクトリーの戦いと成る。
F1やGTも概ね似たような傾向。

だが、サイクルステージレースにおいては、毎ステージ同じ面子のライダーが勝つ訳では無い。
スプリントでは最強クラスで何度もステージ優勝したグライペルが、山岳ステージではトップから遥か後方でゴールする事は普通に見られる光景。
グライペルのグの字も出てこない。
逆に、平坦ステージではホアキン・ロドリゲス等のクライマーは何処に居るか解らない所に埋もれる。

サイクルステージレースではこれが当たり前なのだが、余り知らない人はアレ?って思ってしまう点でも有る。
グライペルやカンチェラーラ、キンタナやコンタドール等の世界屈指のトップライダーがステージによっては後方の集団に埋もれてゴールしてたらアレって思ってしまう事も時折。

そして、平坦の得意なスプリンターと言っても毎回平坦ステージでトップ争いする訳では無く、トップクライマーが山岳ステージで優勝争いする訳でも無い。
毎ステージ全力で走る訳でも、全ステージ優勝を狙う訳でも無いので、トップ選手でも意外な程後方でフィニッシュする事も決して珍しく無い。
マルケスやロレンソ、或いはF1のロズベルグやハミルトンがトップを毎回走るのが当たり前な展開とは大きく違う所。

総合優勝を狙う人は全ステージそれなりに一生懸命走るが、ステージ優勝狙いもしくは単に参加してるだけの人は、得意なステージ、もしくは必要に迫られたステージ以外はまったりと走る。
あまり遅すぎたらタイムアウトで失格と成るのでまったりにも限度は有るが、全員が全ステージトップを狙って走ってる訳では無い事を理解する必要が有る。
それがサイクルワンデイレースや、モータースポーツを含むこの世のほぼ全てのレースと異なる点だろう。
可能か否かは別として、毎回自分が優勝もしくは好成績を残すために走る他の競技とは事情が少々異なる。

ツール・ド・フランスは120km~200kmを超える距離の過酷なレース。
全員が毎日全力ギリギリで走ってたら体が持たないのだよ。

4.脚質

脚質とは、要するにどのステージが得意か?と言う事。
スプリンター/ルーラー/パンチャー/クライマー/TTスペシャリスト(クロノマン)
と、ライダーそれぞれ得意なステージが異なる。
それらのバランスを見ながらチーム構成が行われる。

スプリンターは平地の短距離専門
クライマーは登りのスペシャリスト
パンチャーは登坂力と瞬発力に優れた選手
ルーラーはトップは取れないものの平均してそれなりに走れる選手
TTスペシャリストは単独で走るタイムトライアルで能力を発揮するタイプ

5.アシスト

サイクルレースは個人戦では有るが団体戦の面も有る。
アシストの存在もその一つ。

最も解り易いのが風除けとしての存在だろう。
つまり、チームのエース、もしくはそのステージで勝利を狙ってるライダーの体力を温存させる為に前を走って風除けと成る。
その風除けを利用して体力を温存したエースは最後に飛び出し勝利をゲットする。
アシストは力尽きて、遥か後方でゴール。
実は意外とそう多くも無いが、これが解り易い形だろう。

風除け以外にも仕事は非常に多い。
エースのペースやリズムを取ったり、登りでライバルチームのエースに付き纏ったり、或いは後方に下がってボトルや補給食を取りに行ったり。
エースの乗るバイクがトラブルを起こした場合、自分のバイクをエースに貸与してエースを先に行かせ、自分はサポートカーを待つ事も時に有る。

自分の成績よりもチームやエースの為に走るライダー。
それがアシスト。
中にはサガンのように、コンタドールのアシストしながらステージ優勝を狙ったり、4回もマイヨヴェールを獲る凄い選手も居るが、概ねアシストはアシスト。
日は当たらない所で頑張る男達だ。

従って、上にも書いたが走ってる選手が全て優勝を狙ってる訳では無いと言う事。
だから、○○選手xxステージは30位でした!
なんて結果を語るのはナンセンスなのだ。

6.戦略

戦略は選手により、或いはチームや状況により大きく異なる。

レースの流れとして良く見られるのが『逃げ集団』と『メイン集団』と分かれるパターン。
『逃げ集団』とは、見たまんま逃げる集団。
通常数人~十数人程度のグループで独走する作戦。
時には遥か彼方まで独走する事は有るが、モータースポーツと違って自転車レースではスタートから独走したままゴールする事は滅多に無い。

スプリントポイントを獲る為、山岳ポイントを獲る為、目立つ為、一か八かの為。
と、逃げる理由は色々有る。
少人数で独走したら敢闘賞が貰えたりとみんなから応援される。
が、特に平坦ステージでは結局集団に飲み込まれるのがサイクルレースの無情な所だ。

ちなみに、レースが出来るのは胸に載せられたスポンサー様のお陰なので、プロフェッショナルレースにおいては何だろうと目立つ事はとても重要なのだ。

また、特に後半のステージに成ると、総合順位争いのライバルチーム同士でのマークが始まる。
2015年で言えばマイヨジョーヌのフルーム(SKY)と、2分差で追いかけるキンタナ(モビスター)
この後半戦で取ったSKYの作戦は、とにかくキンタナをマークする事。
ティボー・ピノが逃げた所で大勢に影響が無いので気にも留めない。
とにかくキンタナは逃がさないよう、キンタナがペース上げたらすかさずフルームは着いて行く。
対するキンタナは、ともかくフルームからタイム差を縮めるべく頑張って登りまくる。
そんな作戦が取られた。

攻防の続く後半戦、最後山岳第20ステージで遂にキンタナはフルームを振り切りに成功。
総合タイムで最後の最後に遂に逆転か!
等とドキドキしたもんだけど....

7.有力選手

何の競技においても、誰もが知ってる有力選手の名前くらいは知っておかないと話についていけない。
MotoGPを見るのにロッシもマルケスもロレンソも知らないとか、F1を見るのにハミルトンやベッテルを知らないとか、話に着いていけないので最低限誰もが知ってる有力選手位は抑えておこう。

0630tor05 0630tor01 0630tor04

総合争いはこの3人。
Moto3でもお馴染みのSKYのフルーム、ヤマハファクトリーでお馴染みのモビスターのキンタナ、チームが最後と成るティンコフのコンタドール。
この3人が本命。
ただ、アクシデント一つで状況は変わるので、あくまで現時点での本命と言う事で。

他に、ファビオ・アール、ヴァンガードレン、ロベルト・ヘーシンク、ワレン・バルギル等

0630tor02 0630tor03

スプリンター、マイヨヴェール争いの本命はこの二人。
レインボージャージ(アルカンシエル)を着る世界王者ペーター・サガン、そして昨年のツール最強スプリンターのグライペル。
この二人のスプリント勝負は見逃せないポイントだ。

グライペルはジャージよりもステージ優勝の方にウエイトを置いてるライダーなので、実際のポイント争いにおいてはクリツォフやデゲンコルプの方がサガンのライバルとなり得るかも知れない。

そして、今年一杯で引退を宣言しているカンチェラーラ、日本のエース新城幸也も見逃せない。

以上、大体これくらい知ってれば、テレビ見てたら大体何やってるのかくらいは解るだろう。
より深く知りたい人は、勝手に調べよう。
自転車レースはもっともっと難しくてややこしく、そして面白い面が沢山有る。
調べれば調べるほどに楽しめるってもんだ。

Bicycle

Posted by tommy