フルネームで覚えて下さい

下の名前、なんて表記すると、何やら良からぬ誤解をわざと生んでしまいそうな感じが濃厚なのだけど、ともかく下の名前。
ファーストネームだとかギブンネームだとかって呼ばれる、下の名前。
博文だったり重信だったり公望だったり富子だったりと。

 

友人の一人がベンチャーを起業したので、そこで手伝いをする機会が有る。
バイト、とさえ呼べない、ただのお手伝いだ。

その創業時の事。
実は社名に自身のファーストネームを着ける危機一髪な出来事が有った。
登記するにあたって、当然ながら定款に社名を明記する必要があるのだが、そこで自分の下の名前を社名に着ける、と言う危険な場面が有ったのだ。
思いつかないから名前でイイやと、そんなヤケクソな理由で。
苗字は同業に同じ会社が有るから下の名前で、と。
虎楠発動機とか、宗一郎技研だとか、ジオン共和国みたいな具合に。
後に社史に残る最大の事件として語る継がれるかも知れない、大きな事件だった。
いやぁ、下の名前は無いわ。
アシストやトラストやフロンティアなんて名前も無いけど、流石に下の名前は無いわ。

 

ベンチャーはベンチャー同士、何かしら交流を取り、何かと顔を合わせたり話をする機会も有る。
同業種か異業種かを問わず。
私もちょこちょこ話す機会は有るのだけど、稀に存在するのが社員を下の名前、つまりファーストネームで呼び合うって会社。
流石に社名に下の名前は無い、ってか創業者の名前を着けた会社自体今どきはそうそう無いかも知れないけど、社員を下の名前で呼び合う会社ってのは実在する。

おはよう、文雄
ありがとう、義偉
あなた疲れてるのよ、モルダー

そんな具合に、下の名前で呼び合う、コストコみたいな事をやってる会社がたまに有る。
最初はなんか妙に照れるみたいだけど、慣れたら割と平気らしい。
社員同士が仲良くなったりとか、封建的な企業とは異なるなんか新しい事をしてるぜ感が気持ち良いとか、メリットは色々と有るらしい。
ただ幾つか難点が有る。

一つが対外的な問題。
社内で上司の事を芳正と呼ぶのは結構なのだが、社外ではやはり林と苗字で呼ぶのが一般的な日本社会。
宇宙世紀においては一部を除いてファーストネームで呼び合うのが一般的なのだが、現代の日本では苗字で呼ぶのが一般的だ。
部長の芳正は外出してますと電話で言われたら、はぁ??って気に成ってしまう。
その辺を使い分けるか、或いは頑なに貫き通すか。
しょうも無い話だけど、会社はガイドラインを明確に規定する必要が有る。
どっちを選択するも自由だけど、決めておかないと何かと混乱を生む。

二つ目が覚えられないって事。
通常は同僚の名前なんて苗字だけを覚えてたら事足りるのだが、ファーストネームで呼び合う場合、フルネームで覚える必要が有る。
社内ローカルルールはどう有れ、基本は苗字で呼ぶのが普通な日本社会。
アストナージさんの事をアストナージさんと覚えただけでは、いざって時に困ってしまう。
メドッソって誰やねんって。
だから私の事を富山富子と覚えて貰う必要が有るのだが、それはそれで中々に面倒くさい。
これが、ランバ・ラルとかシャリア・ブルとかつのだ☆ひろのように、フルネームが基本で有り語感もリズミカルならそう問題は無いのだが。

三つ目が十字架を背負った人への対処。
これが、『せいこ』や『やすし』や『よしひさ』なら何の問題も無いのだが、世には生まれながら珍名と言う十字架を背負った人が居る。
ブリーフやブルマやトランクスとか。
呼ぶのも困るし呼ばれるのも困る、重い重い十字架だ。
確かにヘンテコな苗字も有るのだけど、それはそれで仕方ないので小学生以外はとやかく言う人は居ないだろう。
だが、基本的に親が着ける名は訳が違う。
名前は、自分に取って生まれて最初のとても大切な贈り物=ギブンなのだが、それが場合によってそれが重い十字架と成る。
その重い十字架を背負った人に取っては、下の名前で呼び合う文化は非常に心が苦しい文化と成りえてしまう。
つくづく、名前ってのは大事なんだと思う。

 

 

ある日の朝の事。
ご近所さんと玄関先で特に中身の無い話を適当に繰り広げてるときの事。
そのご近所さんの一人が私に言った。

そうそう、弟がバイクを買ったのよと。

下の名前も知らないご近所さんの、さらに顔も見た事の無い見ず知らずの弟さんの事なんて微塵も興味は無いんだけど、誰かがバイクを買ったと言われると、ほんの少しは興味を持ってしまうのがバイク乗りの性。
ケニヤの大統領はケニヤッタって名前なんだよ、ってよりはほんのちょっとは興味が持たれる話題だ。
ちなみに、ケニヤッタ大統領の親父は初代首相のケニヤッタ。
改名する元の名前はンゲンギと言うらしい。
どうでもいいか。

そうそう、弟がバイクを買ったのよと、ご近所さん。
だからどうしたと思いつつも、何を買ったのかとそんな無茶な事を聞いてしまったのは、暑さが原因なのか、あるいはセミによる音波攻撃が原因なのか。
奥さんが使ってる化粧品のブランドを旦那さんに聞いても明確な答えは得られないのと同じく、ホンダとハーレーとナナハンしか知らない人にバイクの名前を尋ねても明確な答えは得られない。
私にアイドルグループの事を聞くのと同じくらい無理な話だ。
知らんわ。

でも奥さんは頑張った。
奥様なりに頑張った。
弟の買ったバイクの名前を頑張って振り絞った。

えっとねぇ、たしか、『なんとかアール』ってバイク
と、奥様は頑張ってその名前を振り絞ったのだ。
なんとかアールと。

続けざまに、その『なんとかアール』ってどんなバイクなのかと尋ねられたのだが、非常に残念ながら私は超能力者でも名探偵でも無いので明確な返答は出来なかった。
ちなみに中古らしい。
....
これが新車なら、下の名前にアールと名の付くバイクは有る程度絞れてくるのだけど、中古車と成るとその範囲は膨大に成ってしまう。
H2とかRR-Rとかスーパーボルドールだとか、そんな特徴的な名前なら十分に判別は可能なのだけど、流石にRだけじゃ分からない。
メーカーさえも分からないなんとかアールを、どんなバイクだと的確に答えるのは私の推理力ではちょっと難しい。
じっちゃんの名にかけようと、ばっちゃんにナニをぶっかけようと、私の推理力では正解を導き出すのは難しいな。

せめて、せめて苗字を覚えてくれ。
私はそう切に願うのだが、ニンジャやCBやGSXなんて言われてもそれはそれでまた解らないので、結局はフルネームで覚えて下さいと言わざるを得ない。
バイクの名前って、節操無く似たような名前着けてるので大変覚えにくいのだけど、頑張ってフルネームを覚えて下さいと言わざるを得ない。
まぁ、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy