オレを踏み台に！

2016年5月10日

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何処の世界でも話は同じだろう。
一般的な企業や飲食店、或いは職人と呼ばれる世界でも。

右も左も解らないような若者を仲間に入れて、挨拶の仕方から名刺の持ち方から教えこんで一人前に育て上げたと思ったら

『先輩、実は今度大手企業に転職するんです！給料倍に成るんすよ！』

等と嬉しそうに言われた日には、先輩としてはちょっとカチンと来るだろう。
お前の舌を噛み切った後で、自分の舌を噛み切って死んでやる！
とまでは思うかどうかは知らないけど、お前を育てるまで、オレ達がどれほど苦労したと思ってんだ！
と、愚痴の一つも言ってみたくも成るだろう。

既にパナソニック自らの手によって終身雇用なんてのが無くなって久しい日本。
何時までも一つの会社にしがみついてないで、より良い条件で転職が出来る成らばどんどん進むべき時代だろう。
勿論、無節操に後先考えずに転職したら時に悲惨な目に遭ってしまう事も有るけれども、その辺りは自己の責任において慎重に判断して頂きたい。
そう、自己の判断のみに基づいて。

自分の人生、最も重要なのは自分の事で有り家族の事だ。
勤めてる会社の社長や先輩や人事部長の事なんか関係は無い。
自分や家族に取って、その会社を出て行くのが良策と思うなら出て行けば良いし、残るのが良策だと思えば残れば良い。
自分の人生、誰にとやかく言われる筋合いなんて無い。

それはその通りなんだけども、調理師学校を出てレストランに入社した若者に、芋の剥き方から手取り足取り教えて、やっと一人前に成ったかと思った矢先に余所に移られたら、そりゃ腹立つわなぁって思う。
とやかく言われる筋合いは無いのだけど、それでもとやかく言わずに居れない点は大いに有るだろう。
気持ちはちょっと複雑。

ロレンソの穴を埋めるだろうと言われてるこの若者。
マーヴェリックビニャーレス。

２０１１年のＧＰ１２５ｃｃクラスにデビュー。
デビューイヤーにはランキング３位といきなりの好成績を収める。
その後、２０１３年にmoto3王者と成り、翌年moto2へステップアップ。
２０１４年はmoto2クラス4勝を挙げランキング3位。

そんな抜群の実績を引っさげてmotoGPクラスへ上がったのは昨年２０１５年。
ランキング１２位。
ルーキーな事に加えてスズキの再始動１年目だった事を考えれば十分に及第点と言える。
そして満を持して開幕した２年目。
オフシーズンのテストから、電子制御変更やタイヤ変更なんかもお構いなしにグッドなリザルトを残すまでに成長を遂げた。
特にプラクティスでは開幕戦でいきなりフロントローを取る程。

そして遂に波乱のルマンで初の表彰台に。

あっと言う間に名実共にトップライダーへと急激に成長を遂げたのだ。
MotoGPマシンには右も左も解ってなかった若者が。

自分の人生、何処に行こうがそりゃ勝手だ。
誰にとやかく言われる筋合いは無い。
ビニャーレス本人が選べば良い話だ。

でも、やっぱ思うわなぁ。
そりゃ思うよね。
辻本さんがホンダに移った時よりも思うよね。
原田哲也がアプリリアに移った時と同じく思うよね。
エディーローソンがホンダに移った時と同じく思うよね。

そんなに勝ちたいか？
そんなに勝てるバイクに乗りたいか？
ああ、そりゃそうだね。
うん、そりゃそうか。
ええ、そりゃごもっともか。

勝つために走るライダーは、勝てるマシンに乗りたいのは勿論当たり前の話な訳だ。
後の方でちょろちょろ走ってるライダーとて、もっとイイのに乗ればもっと上位を走れるのに！
と思ってるライダーも多いだろう。
実際には、良いバイク乗ってたのにズルズルと落ちてきた人もちらほら居るけれども。
誰とは言わんけど。

その昔にランキング２位に成ったメランドリも、スズキのファクトリーライダーとなったエスパル兄ちゃんも、ライダーとしては大成功を収めてると言えるのだろうけども、もしメランドリがレプソルホンダ入りしてたら、もしエスパル兄ちゃんが当時ARTなんかに乗らずにLCRやグレシーニ、或いはテック3に入ってたら、二人のライダー人生も少し違ってたかも知れない。
かもしれない。
特にメランドリは、選択さえ間違わなければもっと偉大なスターと成ってたかも知れないのにね。
ことごとく選択を誤ったんだから。

良いライダーはより良いマシンに乗る権利を持ち、そしてより良いマシンに乗るべきだろう。
でも、育ったと思ったら踏み台にされて余所に行かれたら、それはそれで堪らんわなぁって気持ちもまた。
契約不履行による違約金は有れども、移籍するからと移籍先から金銭保障なんて受けれないんだから気持ちが複雑だ。
Moto2もMoto3も含めて、幾ら必死にライダーを育てても、MotoGPクラスの上位3チームにちゅっちゅちゅっちゅ吸われるだけの現状は、そろそろ考え時なのかも知れない。

と、ロレンソショックの余波を受けて複雑な気持ちで有ろうスズキファンの皆様の気持ちを代弁してみた。
個人的にはペドロさんがヤマハで走る所を見てみたいので、ビニャーレスにはもう２年辛抱してて欲しいなと思ったりもする。