ストレス社会

先日髪を切りに行った。

切りに行った、と言っても何時ものように毛先をちょい切りしただけ。
高校生の頃からちょっと変わってない。
ん、まぁ髪型だけは。

 

ストレス解消ですよ。
ストレス溜まりますからねー。

と、私の後頭部目掛けてそう喋ってたのは、その日私のカットをした美容師さん。
何でも、ストレス解消の為にとあるスポーツをやってるらしい。
とあるって何やねんっては、まぁさておき。

 

『趣味は何ですか?』

と聞かれた際に、どう答えるのが良いのだろうかと考える事が有る。

幸いにして、別に大きな声で他人に言えない趣味を持ってる訳では無いのだけど。
マンホールにバルサンを噴射させて地獄の光景を巻き起こしたり、プライムビデオのアニメ動画に切れ味鋭い辛口コメントを投下する趣味も無い。
朝からパチンコ屋に並んで、負けたらそこらのゴミ箱を蹴っ飛ばすような趣味も特に持ち合わせて無い。
まぁ普通。
少年漫画の主人公としてはちょっと物足りない、極めて普通な生き方。
大きな声で他人に言えない趣味を持ってる訳では無い。

でも、趣味は何だと改めて聞かれても、ん~~~ってちょっと考えてしまう事が有る。
何と答えるのが正解なのかと。

まぁ、ルービックキューブでも皿回しでも適当に答えておけば結構なんだけど、美容室って店によっては客との会話をメモしてたりするんだよ。
だから適当な話をしてると、半年後に『皿回し頑張ってるんですか?』とか聞かれて、何言ってんだ??って事に成りかねない。
自分の言った設定をちゃんと覚えておけば良いのだけど、それは中々に難しい。
荒木飛呂彦ですら完璧とは言えないのが現実。
半年前に口からでまかせ言った設定なんていちいち覚えて無くても仕方ない。

それじゃぁ正直に言っておけばイイじゃないか、って話でもあるのだけど、それはそれで面倒臭かったりする。
バイク乗ってるんだよ、なんて言ったら、大体はハーレーですか?なんて聞かれたりする。

『いいえ、クロスプレーン型クランクに変わった頃のR1ですよ』

と早口で言った所できっと通じないので、中々に返答が面倒だったりする。
もっとも、変に通じてフラットプレーンとクロスプレーンとのトラクションがあーだこーだと聞かれても、それはそれで困ってしまうんだけど。
どっちも乗ってたけど私にそんな事聞かれても困るわ。

 

『ん、まぁバイクに乗るくらいかなぁ』

と、正直に答えておいた。
マクロス7見ながらベランダで自転車に乗る、なんて訳の分からない事は言わずに。

すると髪を切りながら美容師は答えた。

『バイクですか、イイですね、ストレス解消に凄く良さそうですねー』
と。

一体、私の背後でハサミを握ってるこの美容師はどれだけストレス抱えてるんだろう?
その心の闇に、私はちょっとドキドキした。
ハラハラした。

 

特に何事も起こらずカットは終わり、シャンプーはアシスタントらしき若手美容師にチェンジされた。
髪を乾かしながら、その若者は語る。

『実は私もバイクに乗ってるんですよ』
と。

どうやら、駐車場の奥に停められてた非常に美容師っぽいバイクは彼女のバイクだった模様。
何、とは言わないけれど、とても美容師っぽいバイク。

『ストレス解消にもイイですよねー』

と、なんかさっきも聞いたような台詞を投げかけられた私は、一体この店で働いてる人はどれだけ闇を抱えてるんだろうかとちょっと心配に成ったと共に、わざわざ毛先だけ切りに来てストレス溜めさせてごめんねと、心の中でスマンかったしておくのだった。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy