オキシドーラーの愉悦

『バイク乗ってる人って変な人が多いよね』

と言う事を始めて認識したのは、まだ中学生だった頃の事。

 

当時、私はモトクロスごっこに明け暮れてた。
走ってたのは兄の友人(のお父さん)が所有する土地。
元々は建設重機を駐機する場所だったのだが、何らかの事情により重機が移動したので、その空いた土地を改造してミニモトクロスコースを作ってたのだ。
と言っても、幾つかのコーナーと小さなジャンプが有る程度で、80ccクラスでさえ持て余すような狭さ。
BMXなら十分に楽しめるが、大人がモトクロッサーで本気で走るには勿論余りに狭い。
とてもじゃ無いけど250ccをフルスロットルなんて出来ない。
柵を破って外の世界に出てしまうわ。
グランツーリスモみたいに。

 

 

そんな所で、日々バイク乗って遊んでたのだが、その土地の持ち主、つまり兄の友人がとても変わった人だった。
変態と言って過言では無い位。

それは怪我。
モトクロスにはつき物の怪我の治療。

当時、怪我の箇所を水洗い後に消毒し、きな粉みたいな粉掛けて傷口を乾燥させるのが一般的な治療法だった。
現在の常識とは少々趣きは異なるが、当時はそれが一般的だったと思う。
取りあえず消毒して乾燥させとけってのが。
赤チンはすでに無かった。

 

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当時の消毒の定番と言えば、オキシドールが一般的な時代。
マキロンも有ったと思う。
私はマキロン使ってたように記憶してるし。

でも、この兄の友人はひたすらオキシドール。
生粋のオキシドーラー。
コアでロックでスパルタンなオキシドーラー。
あの傷口にぶっかけると、ジュワジュワと泡を吹くのが『効いてるぜ!!』って感じがしてとても良いのだとか。
そして、ちょい深めの傷に掛けたら、それこそ悶絶する位に激痛が走るのも『やっぱオキシドールめっちゃ効いてるぜ!!』って感じがしてとても良いのだとか。
マキロンなんてちょっとも沁みないし、勿論泡も噴かないので効いてる気がしないんだとか。

 

狭くスピードの出ないコースなので、ちゃんとした格好してればそうそう大した怪我なんてしない。
MXウエアとガードとまともなヘルメット被ってたら、そうそう怪我なんてしない。
精々突き指か手首の捻挫くらいなもんだ。
だがよりによってこの日はBMXで遊んでたので、短パンにTシャツにノーヘルにノーグローブと、友達の家にゼビウスしに行くような格好。
よりによってそんな格好の時にジャンプ失敗したものだから、擦過傷を両手足から顔面からと広範囲に負ってしまったのだ。
ガキ大将みたいに傷だらけ。

 

傷自体はそう深くは無い。
自転車で土の上で転んだだけなので、傷自体はそれほど深くは無い。
ただ、範囲が凄く広い。
そこら中がすり傷だらけ。
お風呂に入ったら、あひゃぁって変な声を上げるレベルで。

当時、怪我の箇所を水洗い後に消毒し、黄色い粉掛けて傷口を乾燥させるのが一般的な治療法だった。
現在の常識とは少々趣きは異なるが、当時はそれが一般的だったと思う。
取りあえず消毒して乾燥させとけってのが。

彼は全身の多くに負った傷口を水道で洗い流し、そしておもむろに消毒液を取り出した。
『効いてるぜ!!』感がハンパ無い、オキシドールを。

『うへー』
とか
『うひー』
とか

京都市動物園で響く獣の声のような、何とも形容し難い悲鳴を上げながらも、それでも顔はちょっと笑ってたりする彼を見て、当時中学生だった私は思ったのだ。
体中の傷口から泡をぶくぶく吹きながら、悶絶しつつもちょっと笑ってるこの人を見て、当時中学生だった私は思ったのだ。

『バイク乗ってる人って変な人が多いよね』

と言う事を。

 

全身を泡だらけにしながら、余りの気持ちよさに口から泡吹いて卒倒しないでよかったなと思う。

 

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy