そして僕は、夕暮れと共に途方に暮れた

いやぁ、正直ナメてたわ。

高校2年生の夏休みが終わろうとしてたある日、私は今にも陽が暮れそうな海を見ながら途方にくれてた。
いやぁ、マジで、ナメてたわ。
しみじみとそう思いながら、私はどうしたもんかと考え込んでいた。

 

この日の夜明け前。
CBR250Rに乗って、何か思い立って唐突に家を出た。
宇治から京田辺、そして奈良市内を抜けてもなお走り続け、ふと気づくと奈良なんだか和歌山なんだか良く解らない山の中に来ていた。
用事なんて何も無かったのに。
なんか走りたくなって、気づいたらそんな山の中まで来てたのだ。
で、和歌山なんだか奈良なんだか、もしかしたら三重なんだかも良く分からない山の中まで来てたのだ。
調子乗りすぎた。
ってか、ここ何処???

その時、私が持ってたのはツーリングマップルが一冊。
タンクバッグにはその地図一冊と、途中で脱いだ長袖モクロスジャージと、女の子のお出かけポーチタイプBが入ってるだけ。
女の子のお出かけポーチタイプBの中身についてはトップシークレットだ。

とりあえず海に出ようと、海を目指して走った。
なんかやたらと狭くウネウネにうねった国道だか県道だかを通り、ヘトヘトに成ってひたすら走ったらやっとこさ海まで出た。
所謂酷道とも言われる、山の中のうねうね国道から、整備が行き届いた海沿いのスムーズな道へと出た私はここで、ほっとすると同時に選択を迫られたのだ。

 

さて右に行くか、左に行くか。

今地図を見て記憶を呼び起こすと、多分42号線と424号線の交差点じゃないかな、って思うけどうろ覚え。
ともかく、ウネウネウネウネした山道を抜け、平坦な田舎道を過ぎて、そしてようやく海にやってきたのだ。
ここで突きつけられる選択は2つ。
右へ行くか、左へ行くか。

標識を見た私の選択は左。
だってそこには白浜と書かれてたのだから。

ってのも、その年の夏の初め、私の友人達とその白浜へ行く予定だったのだ。
大阪のカフェオレ色した海しか知らないみんなはとても楽しかったと、帰ってきた友人達からそんな土産話をさんざんっぱら聞かされてたのだ。
何の用事だったのかは覚えてないんだけど、ああ、やっぱ私も白浜行けば良かったなぁって、結構本気で思ってたんだよ。
カフェオレ色ですら無い、海すらない京都市民には、青い海と白い砂は憧れ以外の何者でもない情景なのだから。
まぁ日本海に出りゃ幾らでも有って、ぶっちゃけそっちの方が近かったんだけどさ。

ともかく、そんなちょっとの蟠り(わだかまり)と、一度その素晴らしいとの噂の白浜とやらを見てやろうと思い、私はそっちへ向けて、スロットルを開けたのだ。
水着なんて持ってないのにビーチ行っても仕方ないんだけど。

 

白浜はそれはそれはとても綺麗だった。
もう夏休みは終わりそうだったけど、ビーチにはまだまだ海水浴客がキャッキャしてた。
私は、ヘビーオンスの分厚いジーンズとトレッキングシューズ、タンクトップにジャケットと言う格好で、1人、おにぎり食べながらぼんやりしてた。
いやぁ、白浜って綺麗な所だね。
でも、これから、どうしようかな。

ライダーは先っちょが好きだ。
紀伊半島の先っちょ、つまり潮岬までもうすぐじゃん、って事に改めてツーリングマップルを見てて気づいたのだ。
あ、ここからなら直ぐに行けそうだね、と。

私は、ビキニでキャッキャ言ってる若者たちを尻目に、ジャケットを着込んで紀伊半島の先っちょ、潮岬方面へとCBRを走らせた。
走らせた.....
走らせた.....
走らせまくった.....

いやぁ、遠かった。
白浜と潮岬って直ぐ近くかなと思ってた浅はかな京都人。
まぁ鹿苑寺と慈照寺くらいの距離じゃ無いの?
なんてナメた事考えてた、チマチマしたエリアでチマチマ生きてる京都人の私。
意外と遠くて、思ったもんだよ。
いやぁ、ナメてたわ。
紀伊半島ってデカいんだね、と。
てか、なんか、めっちゃデカいんですけど、と。

 

結構ヘトヘトに成って、どうにかこうにか潮岬へと到着した私。
自販機で甘い缶コーヒーを片手に、木の柵の上に腰掛け、海を見ながら思ったんだ。
本州の最南端の端っこで、海を見ながら思ったんだ。
ここでとても重要なことを。
....どうやって帰ろう。
って。
今にも陽が沈みそうな海を見ながら、そんな事を思ってたのだ。
.....いや、ホント、もう夕方なんだけど、私、これからどうするねんって。

 

指を定規にして、ツーリングマップルを広げてどれくらい有るんだろうと測ってみたら、ここから家まで大体250kmくらい有りそう。
30km/h平均なら8時間、40km/h平均なら6時間くらいかな。
....無理。
てか、もうヘトヘトだって。
既に午前中の山の中でヘトヘトだったんだって。
それなのに何でこんな遠くまで来たかなぁ。
しかも荷物はツーリングマップルと女の子のお出かけポーチタイプB一つだけで。

どんどん暗くなっていく潮岬。
ナメてたわ。
マジで紀伊半島ナメてたわ。
てか、めっちゃデカかったわ。

自分の愚かさを呪いながらも、ただただ日が暮れる一方の潮岬で、ただただ途方に暮れる私なのだった。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy