立ちゴケくらいしておくもんだ
まだ桜はつぼみさえ膨らんでない、ちょい前の事。
私は、何人かで六甲山の北の方の、とある所へとバイクに乗って出かけた。
メンツは、頻繁に顔を合わす人が何人か、に加えてもう一人。
正直、誰だっけ？って人。
〇〇さん、って名前を聞かされても、誰だったっけと覚えてなかったりしてて、当日朝まで結構悶々としてた。
えっと．．．．誰だったっけ？？
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結局、その疑問は当日に成っても解決する事なく、待ち合わせ場所のとあるコンビニへ。
すでに到着してた友人と、コーヒー飲みながら私は正直に打ち明けてみた。
えっと、今日来る人って、誰だったっけ？？
まぁ、格好悪いけれど、本人に聞くよりはマシだろう。
流石に本人に向かって、ところでアナタ誰でしたっけ？と聞ける程の図太い神経は持ち合わせてない。
三宮の交差点を全裸で逆立ちしながら尻の穴からカレーうどんを食ってやれる程度の気合は持っているが、本人にあんた誰よと聞く程では無い。
あ、気合と根性は有るけど逆立ちは出来ないのが残念なんだけどね。
いやぁ、残念だ。
さかだちさえ、できたらなぁー。
ハヤブサに乗ってた人？
ああ、何人か居たけど、いまいち覚えてないや。
昔、出石に一緒に蕎麦食べに行った人？
ああ、出石に行った事は覚えてるけれど、誰と行ったかなんて覚えてないわ。
〇〇ってトレールバイクにも乗ってた人？
ん～～そんな人って一杯居るからなぁ。
えっと、それじゃぁ．．．．．
話はするりと変わるけれど、アメリカ人と時々ネットで話をする機会が有る。
前に勤めてた時に知り合った人で、アメリカのロボット企業に勤め、モトクロスやってて、現在はアフリカツインだったかに乗ってる西海岸在住の人。
ある日、最近どうよと尋ねてみたら、彼は愉快な口調でこう言った。
ああ、去年クビに成ったよ。
と。
クビに成ったら仕方ないかと別の会社へ勤めてるのだが、どうやらそこもそろそろクビに成りそうな予感がするらしい。
これこれ5回程クビに成った経験を持つ彼なので、その辺の空気感は敏感に察する事ができる。
なんせ20代の頭、初めて就職した会社を数か月でクビに成った、経験年齢が結構早い男。
すでに解雇破瓜なんてとうの昔に通過した経験豊富な男なので、今さらクビに成った程度でシーツを嚙みながら涙を流したりなんかしない。
もはや日常、とまでは行かないにしても、クビなんて大して珍しくも無い。
今頃は既に6回目のクビを食らってる、かも知れない。
一方日本は、既に終身雇用なんて幻想は消滅してるってのに、未だにその一つ所に長く勤め続けるのは偉いんだ的な空気感だけは残り、転職はあまり望ましくない、クビなんて悪そのものだとの認識が成される場合が有る。
もっともっとクビが日常に成ったら、2回や3回クビチョンパされてもどうって事は無いのかも知れないけれど、少なくとも今の日本では転職回数が多いと正直あんまりイメージが良いとは言えない。
私のように、たった一回自主的に転職した人間にですら、何やらあんまり印象良く思わない人も居るしね。
いやいや、ただの転職ですよと言っても、これが中々どうにもね。
これは古い価値観をお持ちの古いタイプの人だけでなく、クレジットカード会社や不動産の保証会社まで、未だにそんな空気感は残っている。
幾ら転職して年収は上がったんですよと訴えても、それを100％肯定的には中々受け取って貰えない、なんて人も少なく無いんじゃないかと思う。
人材の流動化が今より進んだらそんな風潮は無くなってくんだろうけど、雇用の流動化、人材の流動化って奴がさらに進んだら、それはそれでまた生きにくい人も出てくるんだろう。
皆が皆、とても優秀で、環境が変わろうと平気な顔してやってける人ならそれで結構なんだけど。
現実はそうでは無いので、クビにしやすいだけで雇って貰えない、なんて事態も、起こりえるかも知れない。
転職は決して失敗とは言えない話なんだけど、それ以外の何かしらの失敗ってのは、例え後で幾ら挽回しようと場合によっては生涯ついてまわる事が有る。
これを書いてる今も私の家の割と近所では高校野球が行われているが、野球なんだから勝つチームが有れば負けるチームも有るのは当然な事。
みんなが勝者だよと、手を繋いでベース周ってもどうにも成らないのだから。
勝負なので勝つチームも有れば負けるチームも有る。
だが、その負け方によってはその後の人生にも大きく影響を及ぼす事も有る。
チームを引っ張って来たエースが最後に力尽きて惜しくも負ける、ってのは負け方としては非常に美しいのだが、必ずしも優勝チーム以外のすべてのチームが綺麗に負ける訳では無いので、もし仮に苦い敗戦の原因を作った当事者に成ったら、心に植え付けられた傷は計り知れないだろう。
なんせまだ十代の高校生。
40代のおじさんが飲み過ぎて部長の頭にゲロ吐いた程度の事ならまだどうって事は無いかも知れないが、非常に重い敗戦の責を担わされる少年には酷な話だろうと思う。
その後、挽回の場面が訪れたら良いのだけど、話はそうそう簡単には行かない。
徳川家康なんて天下まで取ったのに、450年経った未だにうんこ漏らした人と言われるのだから、この国においては一度の失敗は根が深い事が良く解る話だ。
家康公も、本多忠勝ロボに乗る時に立ちごけした程度ならまだ良かったんだけどね。
ちなみにその徳川家康公。
かの有名な、三方ヶ原の戦い敗戦の直後、尻がムズムズしてるのを我慢してる図が後世に残されているが、あれって実はもっと後の時代に描かれた、家康公が尻がムズムズしてるのを我慢してる姿を想像して描かれたものらしい。
だから実際にうんこ漏らしたか、やっぱり味噌だったのか、実はそれさえも無かったのかどうかさえあやふやなのに、うんこ垂れ呼ばわり．．．．まぁされてる訳でも無いんだけど、ともかくそんな不名誉な歴史が残って不憫だと思うわ。
ハヤブサに乗ってた人？
ああ、何人か居たけど、いまいち覚えてないや。
昔、出石に一緒に蕎麦食べに行った人？
ああ、出石に行った事は覚えてるけれど、誰と行ったかなんて覚えてないわ。
〇〇ってトレールバイクにも乗ってた人？
ん～～そんな人って一杯居るからなぁ。
えっと、それじゃぁ．．．．．
ああ、ｘｘで立ちごけした人？
！！！おお、あの人か！！
唐突に思い出したこの人の事。
そうだ、立ちゴケした人だ。
当日朝、そんな大きなヒントを得て答えをギリギリで手繰り寄せた私は、無事に立ちゴケした人の事を思い出し、事なきを得たのだった。
良かった良かった。
物覚え悪い人間と付き合うなら、立ちゴケくらいしておくもんだね。
印象付けるにはちょうど良いエピソードだからね。
でも、どうせなら強い方がいいんだろと、うんこ漏らすのはお勧めしかねるよ。
それは流石にレベルが高すぎるわ。