選択-2

理由も無く虫を殺す子供たち。

私の幼少期にも、周囲には特に明確な理由も無く虫を殺す子供が居た。
トノサマバッタに爆竹をセロテープで貼り付けて、火を着けて空中に放り投げて爆殺する、そんな悪逆な遊びをやってた人も。
死んだらどうする!とブチ切れたフリーザ様に爆発させられたクリリンのように。

何度も書いてるように、虫と野菜ソムリエは嫌いだ。
嫌いな物にわざわざ近寄って、お前の事が嫌いだと言いに来る変な人も居るが、私の場合は多くの人と同様に嫌いな物には近づかないタイプ。
したがって虫に近寄らない私は、そのような虫に対する残酷な行為に触れる事はもちろん無かったのだが、まだ飼育しても良かった時代に友人が飼ってたブラックバスvsアメリカザリガニの戦いには、ちょっとドキドキしたのを覚えている。
ザリガニなんて生きたまま食べたら胃潰瘍に成りそうだけど、ブラックバスって平気なんだね。
凶悪な爪とトゲと殻に加えて足がモジャモジャしてるのに。
胃が丈夫で羨ましいかぎりだ。
パイナップルを食べると動けなく成る程に胃が痛くなる私は羨ましい限りだよ。

そんな、まだブラックバス飼育が禁止されて無かった時代、水槽内で繰り広げられたブラックバスvsアメリカザリガニの戦い、と言うかただの餌やりと言うか、そんな残虐行為に興奮を覚えた私は思った。
虫は嫌いなので触る事は無かった、が為に私がムシゴロシをする事は無かっただけで、きっと私の中にも残虐性は隠れてたのだろうと思う。
本当に隠れてた...のかどうかは、まぁアレとするけど。
上手く隠せてる筈、だと思う。
今後はもうちょっと上手に隠そうと思う。

 

 

歩いてると、目の前に瀕死のセミが一匹。
セミの成虫の寿命は一週間程と言われる。
恐らくは、一仕事を終えて後は静かに死ぬだけの運命なのだろう。
私の住む関西では、7月半ばの今の時期は普通に見られる有り触れた光景だ。

さて、そんな死にかけのセミを見たら、あなたはどうする?

1.そっと土の上へと移動させ、大地の上で眠らせてやる

2.動物病院に連れて行く

3.特に気にせずに通り過ぎる

4.捕まえて猫に食わせる

5.踏みつぶす

 

命の重さは平等だよと、道徳的にはそれは正しい意見かも知れないが、現実は残念ながらそうではない。
動物病院にセミを連れて来られても獣医さんは困ってしまうし、虫一匹の生死に心を痛めてたら、地面を埋め尽くす程に死骸が積もるカゲロウなんて正視できない。
正視できない、ってか見たくも無いんだけど。

それが犬や猫や近所のおじいちゃんなら話は別だろうが、道端に瀕死のセミが居たからと、多くの場合は何事も無く通り過ぎると思う。
巣から落ちた鳥の雛に人間は手を出しちゃダメ、ってのと同じな訳では無く、ぶっちゃけ、セミなんてどうでもいいわってのが正直な所だろうと思う。
勝手に猫が食うだろうし。
勿論私も何事も無く通り過ぎるタイプ。
謎のDVDが落ちてたらちょっと気になるけれど、セミは特に気にしない。
わざわざ踏みつぶしたりはしないけれど、だからといちいち心を痛めたりもしない。
路傍の石って奴だね。

 

 

この日私は自転車に乗っていた。
自転車と言っても、大した用事も無いのにカーボンフレームに高級ホイールを組んだ自転車では無く、ただのママチャリ。
それ以上でもそれ以下でも無い、ただの電動アシストママチャリ。
それに乗って、私は近所のドラッグストアへと向かった。

買い物は程なく済ませての帰路。
時は昨年、お盆の前後頃。
凄く熱かった。
暑いって言うより熱い。
ガラス張りのビルとアスファルトからの輻射熱が私にじっくり火を通す。
息を吸うと、鼻毛がチリ毛に成りそうな程に空気さえも熱い。
おかしい。
やっぱ最近の夏はおかしい。
余りに熱すぎるわ。
そんな、昨年のお盆前後の事。
今年はさらに熱いよね。
いやんに成っちゃう。

熱い熱いと思いながら自転車を漕いでると、目の前に何やらセミのような物体が落ちているのに気付いた。
流石に本州ではお盆の頃にセミは居ないので、セミのようなモノって奴だろう。
そんな言葉を使ったのは生まれて初めてだけど、ともかくセミのようなモノだ。

近づくと洗濯ばさみだった。
沿道にはアパートが有ったので、きっとそのベランダから落ちたのだろう。
ベランダに洗濯物を干す日本ならではのハプニングだ。

走っていたのは、歩道の半分を仕切って自転車レーンとしてる道。
元々自転車レーン設置を念頭に作った歩道では無いので、ぶっちゃけとても狭い。
一台なら楽々走れるが、対向車が居るとちょっとキツイ。
並走なんかされたら蹴りとばしたく成る。
そんな道。

セミのようなモノ、つまり洗濯ばさみが目の前に落ちてるのに気づいたのだが、同時に前方より自転車が近づいてくるのも気づいた。
ピンチだ。
洗濯ばさみだけに。

ここで私が取り得る選択肢は3つ。
洗濯ばさみクライシスにおける選択肢は3つ。

1.洗濯ばさみを回避するが、同時に正面衝突を覚悟する

2.洗濯ばさみを踏み越えていく

3.一時停止して対向車と洗濯ばさみの両方を回避する

 

私がバニーホップ出来たら洗濯ばさみくらい華麗に回避出来るのだけど、MTBなら2cmくらいは飛べるものの、残念ながら私のテクでは重量級電動アシストママチャリではそれは叶わない。
重力に卍固めされてる私には空なんて飛べないよ。

私の取った選択肢は、洗濯ばさみなんて踏みつぶしてやるぜな道。
これがセミやカブトムシや近所のおじいちゃんならそう言う訳にも行かないけれど、洗濯ばさみくらいなら踏んじゃってもいいやと、ジョースター卿とて言う所。
特にサウザーの生き様に共感してる訳では無いけれど、洗濯ばさみごときに私の進軍は止められない。
ってか、熱いねん。
何もかも面倒くさいねん。
熱いねん。
もうね、熱いねん。

 

私は、ソファに横に成り、ソルティライチを飲みながら、己の愚行を悔やんでいた。
なんで洗濯ばさみなんて踏んじゃったかなぁ。
なんで近所だからと携帯電話を携帯しなかったかなぁ。
ママチャリじゃなかったらパンク修理キット積んでたのになぁ。
パンクがフロントならどうにか乗って帰って来れたんだけどなぁ。
てか、洗濯ばさみでパンクするとはねぇ。

鼻毛がチリ毛に成りそうな熱波の中、30分以上も自転車を押して帰った私は、己の愚行を大いに悔やみ、そしてその後2日程寝込むのだった。
いやぁ、熱中症って、飲んでも冷やしてもすぐに回復しないんだね。
洗濯ばさみは自転車で踏むな、って事以外にももう一つ学んだよ。

 

そんな、昨年のお盆前後の、とてもビターな思い出。
飲んだら乗るな、乗るなら踏むな。
皆様も選択には十分のご注意を。

Bicycle

Posted by tommy