赤がイイ?青がイイ?

「もう無理なのか、もう間に合わないのか」

声を振るわせながら、隣に座る彼は私に言った。

 

「ええ、もう間に合わないわ。だってもう手は届かないもの、だってもう声も届かないもの」

私は静かに、そう答えるしか無かった。
出来る事なんて何も無かった。
無力だった。

 

 

『スピード注意 自動速度取締機設置区間』

でかでかと警告標識が掲げられ、車内のレーダーはしきりに警告を発してる状況。
敵機にロックオンされた戦闘機コックピットのように、車内は盛大に警告音が響き渡る
まさにデンジャーゾーン。
後ろに座るアンソニー・エドワーズがヤバイでヤバイで言ってる状況。
そんなある日の高速道路。

そのロックオン警報が鳴り響く最中。
左側車線を制限速度の時速100kmで走る私のインプレッサを、右側から盛大にブチ抜く一台の派手な車。
ランサーエボリューション。
この日、同行した友人の乗るランエボ10だか9だかそんな車。

 

マルケスに対するロレンソ、ロッシに対するビアッジ、掛布に対する江川、タイガーマスクに対する小林邦昭。
若干古い表現も混じってるけれど、ともかくライバルとして真っ向対角線上に立ち向かう相手。
それがインプとランエボ。
もっとも、インプレッサはWRXと別の道を歩み、ランエボに至っては既に昔の車。
ランサーもギャランも今や昔の話。
そしてパジェロもついに。
何もかも今や昔の話なんだけどね。
そもそもこの話自体、5年ほど前に書いた話の焼き直しだし。

 

ランエボ乗りがインプレッサに対抗心を燃やすのは、NSR乗りとTZR乗りがバッチバチやってた頃と構図は同じ。

今は青だけど、当時は赤かったヤマハ。
今はあんまり良く解らないけど、当時もあんまり良く解らないホンダ。
でも、全日本250ccが大盛り上がりしてた時代は、やっぱりテラカラー=青いNSRかな。
ファクトリーは赤かったけど、NSR250はやっぱ青かなぁって。
話の構成上、その方が都合良いのでそう言う事にしておく。
シードだHBだロスマンズだと言い出したら話が成り立たないから、余計な発言はチャックしておこう。

 

ランエボ乗りはインプレッサに対抗心を燃やすのは、NSR乗りとTZR乗りがバッチバチやってた頃と構図は同じ。

青いNSR乗りが前を走るTZRの尻を見たら、2つ空いてる穴から煙吹いてる赤くて可愛いお尻を見たら抜いてやらねば居れないのと同じ。
赤いランエボ乗りからしたら、インプレッサの青いお尻を見たら、一発抜いてスッキリしなきゃ居れないぜってのが性って奴なんだろう。

そんな彼の行動を、私は責める事は出来ない。
責める権利は持ち合わせて居ない。
オービスの手前で、150km/hオーバーくらいで私をブチ抜くその行動を責める事なんて出来やしない。
それが出来るのは道路交通法だけ。
兵庫県警と、場合によっては裁判所の....

 

ただ思う。
手が届かない悔しさ。
声も届かないもどかしさ。
そして、ただ見送るしかない、何もかも間に合わない口惜しさ。
48歳無職童貞の息子が、鏡に向かってキスの練習してる光景を見てしまった年老いたお母さんのような絶望感。

嗚呼、もう、間に合わないのね。
全てが手遅れなのね。
何もかもが、もう。

 

 

その昔は、都市伝説的に言われてた事がある。
オービスのカメラは節約の為に、3台に1台くらいしかフィルム入れて無いんだよ
と、そんな適当な事。

自分で30回くらいカメラを光らせたら、それが真実なのかデタラメなのかを有る程度推測できるのかも知れないけれど、自分の身で人体実験する程にヤケクソな生き方はしてないので、それを確かめる術は無かった。
まぁ、デジタルデータに移行した今や昔の話なんだけどね。
撮影枚数に限りは無い、そんな時代なのだから、フィルム切れでのワンチャンスも残ってない。
そもそも『フィルム』なんて言っても通じない恐れも有る時代なのだから。
写真のフィルムなんて言ったら、スマホのディスプレイに貼るガラスフィルムの事だと思われて話通じなかったよ、なんて嘘の話の一つも簡単に作れそうな、そんな時代なのだから。

 

 

黄昏時のサービスエリア。
派手なランエボの車内に、この世の終わりのような顔をした一人の男の姿がそこに。
テンションノリノリで私をブチ抜いて行った、数分前の姿はそこには無かった。
誰そ彼、尋ねてみたく、なりけりが、今の彼は誰そ枯。
水の補充を忘れたカイワレ大根のように、シオシオに枯れ果てた今はもはやあの頃の姿は見られない。
ただの乾いた屍のようだ。
タンスの奥から出て来たへその緒のようだ。

 

まぁ自業自得だね、全てお前が悪いんだから兵庫県警から手紙が届くまで震えて眠れ
赤切符か青切符かは楽しみに待っとけ

等と、Yahoo説教部屋に常駐するお説教マイスターのような事は、擦過傷に麻婆豆腐を塗りこむような事は流石に言えないので、元気を着けさせる為、かき氷でも奢ってあげようと思った。
流石にウナギやスッポンや骨付きカルビって状況でも無いので、サービスエリアの出店で売ってるかき氷でも奢ってあげようと、シオシオに枯れ果てた彼に私は尋ねた。
合成着色料でド派手に彩られたかき氷で、ちょっとは元気を出して貰おうと私は尋ねた。

 

『赤がイイ?青がイイ?』

 

CAR

Posted by TOMMY