悪魔は心の隙を見てほくそ笑む

癖や習慣は、誰しも一つや二つは有ろうかと思う。
いろいろと。

勿論私にも無い訳では無い。
ってか普通に有る。

 

有るのだけども、一歩外に出るとそのような悪癖は決して出さないようには心がけている。
所構わず寝っ転がるとか、ヒラヒラした布地を見たら突進するとか、食べた物を吐き出して再びクチャクチャするとか。
そんな牛みたいな癖は持ち合わせてないのだけども、やはりコミュニティと言うか人間関係と言うか他人からの見てくれと言うか、そんなのを人並みに気にする人間なので、自覚してる悪癖は出さないようには心掛けている。
悪癖ってのは、大体は周囲の人からしたら不愉快だからね。

だが、油断してるとその悪癖が顔を出すので気をつけねば成らない。
物陰から、悪魔がほくそ笑むような悪癖を出さないように。

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ミニに乗った。
何度か書いた事の有る、友人の所有してるミニに。
随分久しぶり。

 

前にも書いた事は有るけれど、私は据え切り癖が有るみたい。
みたい、ってのは、普段そんな事を意識したこと無いから。
常日頃停止状態でハンドルをクルクル回してるのなら流石に解るのだけど、私の場合はどうやら駐車する時なんかに、動き出す直前にハンドルを操作してるみたい。
そこにハッキリと意識が有る訳では無いのだけど、どうやら動き出す前にハンドル切ってる事は確かみたい。
普段はパワステなので自覚はサッパリ無いのだけど。

ただ、このミニのような重ステに乗ると、嫌が応にもハッキリと解らせてくれる。
停止状態なら、ハンドル切ってもこの小さな車の細い幅の13インチホイールさえもビクともしなく成るのでハッキリ解らせてくれる。

ちなみにこのミニのオーナー。
ミニを試乗した時に『ハンドル壊れてる!』とか言ったとか言わなかったとか。
普通だよ、それが普通。
重さも、そしてバスみたいな角度も全てが普通。

 

過去、この車に乗ったときに思い知らされた事。
それは据え切り癖。

『お前、据え切り癖有るで』

って事を思い知らせてくれたのがこのミニ。
悪魔が耳元で、なんか嬉しそうに私の悪癖を教えてくれたのがこのミニ。
その程度の事でビービーギャーギャー騒ぐ話では無いのだけども、良いか悪いかと言えばそりゃ勿論良くは無い。
据え切りなんてしないに越した事無いのだから。
ただ、今時は教習所でも据え切りを教えてるみたいなので、知らない間に常識は変わったみたいだけどね。
ペリーがペリルに成ったように。

 

悪癖は油断してると顔を出すのだが、油断してないと悪癖なんて顔を出さない。
気をつけてたら据え切りなんてしない。
油断さえしなきゃ、そんな事は。

 

この日、とある施設のパーキング。
一言で言えば何処かの役所のパーキング。

私は一切据え切りする事なくスルスルと発進し、パーキングの出口へと向かった。
油断しなきゃ据え切りなんてしないさ。
油断しなければね。

そのパーキングは、駐車場管理人のおじさんが居るパーキング。
おじさんに駐車券渡したら、そのおじさんが機械に入れてくれる、便利なんだか面倒なのか良く解らないおじさんシステム。

カードくらい自分で入れるからお気遣い無く、な気もするんだけど、役所のパーキングなので雇用対策なのかな?とか勘ぐってしまう。

 

一切の油断無く発進した私は、パーキング出口のゲート前で停止した。
駐車券をおじさんに渡すために。

『駐車券お願いします』

おじさんは爽やかに、非常に感じ良く私にそう声を掛けた。
役所のパーキングなので必要以上に感じ良く接しなきゃ色々有るのかな?とか勘ぐってしまう。
感じ良く感じ良く接しなきゃダメなのかな?って勘ぐってしまう。
クレームが趣味の悪趣味な人からしたら役所なんて大好物だものね。
もはや主食と言っても過言ではないくらい。
だから必要以上に感じ良くしなきゃダメなのかも。
ご苦労様です。

 

私は、駐車券を手渡す為、半開きに成ってた窓を全開にしようとレギュレーターハンドルに手を掛けた。
そう、ミニの窓ガラスは昔ながらのクルクルハンドルなのだ。
さらに大昔のミニは食器棚みたいなスライドガラスだったのだけど、MK3~最終型までは手動式クルクルハンドル。
今時はクラシックミニ用にコイルスプリングにパワーウインドウにキーレスエントリーのキットまで有ったりするのだけど、今回乗ったミニは旧来ながらのクルクルハンドル。

私は、駐車券をおじさんに手渡す為、半開きに成ってた窓を全開にしようとレギュレーターハンドルに手を掛けて窓を開けた。
だが窓を開けようとしたら閉まっていた。
開けたと思ったら閉まってた。

何言ってんだか解らないかも知れないが、私には良く解ってる。
『ミニのレギュレーターハンドルは普通とは逆回転に回して開けるんだよ』
って事は良く解ってる。
催眠術も超スピードも関係ない。
開けたきゃ逆に回せってこった。

 

『駐車券お願いします』

とても感じよく私にそう声を掛けたおじさんに向け、私は無情にも窓を閉めた。
ピシャリと窓を閉めた私。
物陰から見てた悪魔は、きっとプって吹き出してただろう。
『うわ、こいつ窓閉めよったわ』
って。

 

やだ、なんか感じ悪いよねー

と、感じの良いおじさんはきっと思っただろうけど、そんな顔微塵も見せないおじさんに、役所だから色々アレなのかな?とか勘ぐってしまう。
おじさん、ごめんなさい。
油断してないつもりがちょっと油断してたんだ。
感じの良いおじさん、感じ悪い私でごめんね。

 

そんな感じ悪い私は、静かにミニを発進させた。
でも据え切りなんてしない。
窓を開けようとして閉めたりもしない。
もう油断して間違えたりなんかしない。
一切の油断は無い私は、微塵も隙を見せずにスルスルとミニを走らせるのだった。

でもどうせ、インプレッサ乗ったら右折する時にワイパーをキュッキュキュッキュ動かすんだろ?
なんて、嬉しそうに耳元で喋る悪魔の声を聞きながら。

 

CAR

Posted by tommy