ゴーストライダー

急遽出かける事に成ったこの日。
私は、六甲山の向こう側の真っ暗けの道を、初めてハンドルを握る借り物の車でテレテレと走っていた。

 

ちょい遊びに行こうかと、友人一家と計画してたこの日。
だがその日の朝、旦那さんが急な仕事が入ったとかで計画はちょい変更。
じゃぁ仕方ないので旦那さん抜きで行こうか、どうせショッピングなんて付き合いたく無かっただろうしね、って訳で、連休中にも仕事に汗を流す旦那さんを尻目に遊びに出かける事に。

私の車を出そうかと思ったものの、今回はキッズ様2名様ご乗車。
2つもチャイルドシートを積み替えるのは面倒なので、私が乗ってても保険は降りるよって事なので今回は友人宅の車で行く事に。
買ったばかりの、まだ不動産屋の親父にもぶたれた事の無いピカピカの新車で。
奥様は自分で運転するのはちょい....って事で。

セレナe-POWER。

エンジンで発電して電気モーターで駆動するややこしい車。
随分前にもノートe-POWERにも乗った事有るのだけど、今回が2度目のシリーズハイブリッド。
今までハイブリッドカーなんてハイテク自動車を買った事の無い私には未来の車だ。
流石にミニ以降、キャブもクルクルレギュレーターハンドルも付いてないけれど、未だハイブリッドには縁は無い。
次はPHEVも悪くないかなぁ、とか思ってるけれども、私の乗る車のメーカーが出してるプラグインハイブリッドの¥11,850,000よりって値段を前には半笑いしか出やしない。
まぁ、そもそも¥9,190,000よりって値段の車をベースにプラグインハイブリッドを作ってるので、その値段に成っちゃうのは仕方ないんだろうけどね。
でもなぁ。
いっせんひゃくはちじゅうごまんえん、より、ですって。
あはははは。

 

さて、セレナe-POWER。

その昔に読んだ何だったかのバイク雑誌にこんな事が書かれていた。
4st直4クォーターはモーター(電気)のようにスムーズだと。
目指してるのはモーター(電気)のようなスムーズなフィーリングなんだと。
なんかそんな事が。
まだCBR250RRが直4だった頃の事。

確かに、4気筒のフィーリングは素晴らしく気持ち良い。
もっとドカドカ感とかドコドコ感とかギクシャク感とかドッカン感が欲しいと言うマニアも居るだろうけど、あのヌルヌルした吹け上がりはやはり2気筒ではちょっと出せない独特のモノが有る。
吹け上がるだけで大して走らないって意見も有るだろうけど、でもあのヌルっとした吹け上がりはとても気持ち良い。
電気モーターのような吹け上がりはとても心地良い。
DR800に慣れ親しんだドマニアには全然物足りない刺激かも知れないが。

でも思う。
やっぱ内燃機関は内燃機関、レシプロエンジンはレシプロエンジンだよねと。
その昔にFCにもちょこっとだけ乗った事は有るけれど、その一種独特のロータリーエンジンに比べてもハッキリと解る。
電気モーターはやっぱ凄い。
電気モーターのような吹け上がりとはやっぱ違うよねと。
やっぱ”ようなモノ”とはちょっと違うよねと。
もしかしたら、バールとバールのようなモノとは違うのかも知れないね。
って位に違う。
電気モーターって凄いや。

でも電気モーターで駆動すると言っても、3気筒エンジンで発電してるので全くエンジン音が聞こえない訳では無い。
時計の音はおろかルーターから時折聞こえてくるジジジってノイズさえも気に成る私なので、一度気に成り始めたら結構気に成ったりする。
スロットルペダルと全然連動してないエンジン音が何となく気に成ってしまう。

でも実際には凄く静か。
静かだからこそ、そんな細かい所が気に成るんだろうけどね。
ある時を境に、もうそんな事は一切気に成らなくなったから。

ボベーーーー
ボベベベーーー
バベベーーーーー

一体、急に何が起こったんだ?
靴下から生えたキノコでも食べたのか?
とか思われた人も居るかも知れないけど大丈夫。
ちゃんとシラフだから、酔ってないから、変なモノ食べてないし変なモノをキメて無いから、名前も生年月日も言えるから大丈夫。
携帯の電話番号は言えないけど大丈夫。

それはスクーター。
バーバーベーベー言わせてるスクーターの音。
随分と夜遅くなった六甲山の向こう側、真っ暗けの道に轟くスクーターのみっともない排気音。
マフラー付け忘れたの?って位の音。

だが、音はすれども姿は見えない。
江戸時代の人なら、きっと天狗の仕業だと村のお婆ぁがナンマンダムと念仏唱えてる所だろうけど、私は特に念仏は唱えずに凝視した。
一体何処から音がしてるんだと、真っ暗な遠くを凝視し、そしてもしかしたら後ろかもねとバックミラーをも凝視した。
だが居ない。
音はすれども姿は見えない。
まさかゴースト?
ゴーストライダーか?

そんなポルターガイスト現象を前に、私は呪文を唱えたり塩撒いたりはせずにハイビームにしてみた。
まぁ本来は最初からハイビームで走っとけって話なんだろうけど、ともかくハイビームにしてみた。
すると!!!

まぁ結果的には随分と車間は開いてたので、特に実害は無かったのだけど。
ロービームの光が届かない距離を走ってたので特に実害は無かったのだけど、ハイビームに照らし出された小さなシルエットに私はちょっと驚いた。
真っ暗闇の道をヘッドライトもテールライトも点灯させずに走ってるスクーターの姿に私はちょっと驚いた。
そして、ハイビームでどうにか姿を確認出来る程に距離が離れてるのに轟いて来る程のベーベー音にも驚きと共に改めて思った。
やっぱマフラー付け忘れただろう、と。

マフラーもヘッドライトもテールライトも付け忘れたうっかりさん。
まぁ、うっかり、なんてのは今も昔も誰でもやっちゃう事。
団子を喉に詰まらせたり、食べ過ぎてお腹壊したり、なんて歴史上の有名な人物だって居るしね。
こりゃうっかり。

だから、当のご本人がうっかり捕まったり、うっかり溝に落ちたり、うっかり崖下に落ちたり、なんてのは思う存分やって頂いて結構なのだけど、後続車がうっかり踏み潰したりしたら面倒なので、出来ればテールライトはちゃんと確認して欲しいなと。
テールライトとマフラーはちゃんと付いてるか確認して欲しいなと。
それだけを切に願うばかりだ。

 

ハイビームにした事で煽ってると勘違いして蹴っ飛ばされたらとどうしよう、バックミラーでハイビームされてる事に気づいて狂った獣のように逆上されたらどうしようかとドキドキしてたけど、しばし先での信号待ちでそのうっかりスクーターの背後に停まったら、バックミラーも付いてなかったので私のハイビームは気づいてなかったみたい。

どこまでうっかりやねんと思った私は、自賠責すらもうっかり入ってない恐れが多々有るので音が聞こえなく成る程、銀河の果てまで車間を取るのだった。
借り物の新車なのに、こんなに絡んだらえらい事だ。

 

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy