若さとは何だ?

若さとは何だ?

その問いには、若さとは振り向かないものさ、との答えが古来より用意されている。
そう、若さとは振り向かないものさ。
これが万葉の頃からの世の理。
定説です。

 

また、若さ故、若さが故に過ちを犯すのも、それもまた世の理。

過去は勿論、これから先、人類が宇宙へと活動の範囲を広げた未来においても普遍的に使われる言葉で有り、一つの真理として受け継がれていくのだろう。

若さ故に過ちは犯す。
そしてそれを認めたくは無い。

この揺れる気持ちは、重力から魂が開放された未来においても変わる事は無いだろう。
定説です。

 

ココをご覧の皆様も、若さ故に過ちを犯した事の一つや二つは有ろうかと思う。

革ジャンの袖を切ったとか、シャコタンし過ぎて踏み切りでマフラー落としたとか、25万円もする黄緑のレーシングスーツをオーダーしてしまったとか。
鏡の前で着てみたら、あまりのガチャピンぶりに膝を崩したとか。
25万円もしたのに。
生きてれば何かしら過ちを犯し、そして思い出しただけでこれが若さかと涙の一筋も流してしまいそうな気持ちを抱く事も、きっと一つや二つは有るだろう。

 

そんな事は誰でも有る事。
生まれてこの方過ちを犯した人間なんて居ないのだから。
若ければなお更だ。

大統領でもムービースターでもヤクザの大親分でも、生まれてこの方ウNコ漏らした経験の無い人なんて居ないのだから。
徳川家康なんて450年経っても未だに言われてるのだから。
誰しもがそれを経験し、ママのおっぱいにパンパース、カレーの王子様やアンパンマンソーセージ、それらを一つずつ卒業して大人に成って行く。
その途上での過ちなんて起こって然るべきな事だろう。
そりゃウNコも漏らせば革ジャンの袖も切るさ。
だって若いんだもの。

 

随分前に、FZR250と言う80年代後半~の250ccの4ストレプリカに乗ってた若者(当時)が居た。
名前はバリ男。
勿論仮名だ。
そんなロックな親は流石に滅多に居ない。
例えインドネシアのビーチリゾートで仕込んだ子供だとしても。
そんな地ビールみたいな命名は勘弁してあげて欲しいな。
産地を一生名乗らせるのはちょっと勘弁してあげて欲しい。

 

その頃、ブームはまだTWやFTRがバーバー言わせてた時代。
いわゆるスカチューンって、何か良く解らない改造が施されて、バーバー言わせて走り回るのが流行ってた変な時代。
君はどこの急斜面を登るんだい?
って長い長いスイングアームを付けたりして。

スーパートラップの皿の数が男の価値を決める、とは特に言われてなかったけど、ともかくそんな時代にまだ大学生だった彼が乗ってたのは80年代の4ストレプリカ=FZR250。
あれをレプリカと呼ぶ事に何かしらご意見は有るかも知れないけれど、まぁそんな細かい話しはさておき4ストレプリカ。
時代に逆行するナイスなチョイスだ。

 

そんな、産卵に向かうシャケのように時代に逆行するバリ男君は、レーシングスーツの下だけみたいなバンクセンサー付きの革パン履いて、ヘルメットに触覚つけて、チームのお揃いトレーナーを着て峠を走っていた。
婚姻色が鮮やかな真っ赤なシャケのような色のトレーナー着て。
もはやロックンローラーを名乗ってもおかしくない、時代への反逆っぷり。

もう既に峠を走ってるのは近隣住民か新聞配達の人くらいしか居ない時代に、バリバリマシンは永遠に不滅だと言わんばかりに傍迷惑な事をしていた。
TWをバーバー言わせるのも迷惑だけど、これはこれでまた非常に迷惑な話しだ。
あんまり世間に迷惑かけるんじゃ無い。

 

時々転んだり、時々捕まったり、時に免許が停止したり。
そんな若さ故の幾つかの過ちを犯しながらも、大きな問題に見舞われる事は無くバイクライフを送ってたのだが、ある日彼は決定的な大きな過ちを犯してしまったのだ。
タイムマシンが無きゃ後戻り出来ない、大きな大きな過ちを。

それはシングルシートを組む為にシートレールを切る、と言う大きな過ち。
もはや引き返せない、大きな過ち。
就職の面接前日にパンチパーマにする位、取り返しの付かない大きな過ちだ。
今更縮れ毛矯正に向かっても間に合わない。
もう、間に合わないよ、パンチ。

 

80年代のバイクとは言え、それに乗ってたのは21世紀。
すでにヤフオクも盛況だったので、別にタイムマシンは無くても元には戻せるんだけどね。
....フレームを買えば、の話しだけど。

そのバリバリ走るバリ男君のFZR250は、フレームがステムからシートレール後端まで...要するに全部くっついてるフレーム。
ダブルクレードルのアンダーチューブ部分はエンジン積みやすいように外れるけれど、シートレールは一体化してるフレーム。
後の世代のFZRを含む多くのレプリカのようにシートレール部分だけが別にボルトで留めるバイクならまだしも、このバイクの場合はフレームごと買わなきゃ成らない大騒ぎに成ってしまう。

まさに愚行。
もはや後戻り出来ない暴挙。

だが、好みのシングルシートを組むにはどうしてもシートレールのタンデム部分のカットは避け切れなかったらしく、彼は躊躇する事無く切断した。
3日程考えた後で、躊躇する事なく切断した。
後1週間程考えれば良かったのにと悔やまれて成らない。

止めたんだけどね。
考え直した方がイイよと。

 

『バリ男君ってバイク乗ってるの?今度乗せてよ』

ある日、バイト先のかわい子ちゃん、まどかちゃん(仮名)からのまさかのタンデムデートのお誘い。
好き好んでバイクの後ろに乗りたがるギャルなんてかなりのレアだ。
ポケモンなら...ああ、何も知らないので特に気が効いた事は書けないけど、ともかくレアだ。
ドラゴン藤波のドラゴンロケットくらいにレア。
こんなチャンス、もはや二度と無いだろう。
セカンドチャンスは来世まで回ってくる事など無いだろう。
シートレールを切っちゃったのが悔やまれて成らない。
嗚呼....

 

月日は流れたある日の事。

随分と久しぶりに会った彼は、もうバリバリマシンでは無く落ち着いたスタイルでビッグアドベンチャーツアラーに乗っていた。

もう触覚なんて付いてない。
もうラパイドの尻尾なんて付いてない。
もう勘亭流で書かれたチーム名のロゴ入りトレーナーなんて着てない。
そして、もうシートレールなんて切ったりしない。

それどころか、GIVIのモノキーケースが付いてるので、さらに別売りのバックレスト(背もたれ)を付ければタンデムは更に快適に成る素晴らしい仕様。
あの日の苦い思い出を払拭するかの、素晴らしいタンデム環境だ。

 

既にちょっと若くない彼は、もう若さ故の過ちなんて犯さない。
もはやバリバリマシンじゃ無いのだ。
もはや彼をバリ男なんて呼べやしない。
抜かりの無いタンデム環境。
もはや過ちなんて微塵も無い。

ただ一点残念なのは、そのタンデムシートにまだ誰一人として座ってない、そして恐らく来世までその予定も無いだろうと言う事。
ああ、なんて残念なお知らせなんだろうかと、私は静かに涙を飲んだ。

MOTOR CYCLE

Posted by tommy