正しい選択-1

モノが溢れる現代社会。
スマホにせよ車にせよラーメン屋や焼肉屋にせよ。
見渡す限り選び放題なので、財布と相談しつつ自分に取ってベストな選択を取るのは難しくはない。

とは言えど、国内トレールバイクやFRライトウェイトスポーツ、或いは地域によっては選挙だったりとか。
CRFとKLX230しか無いと嘆いてみたり、ロードスターくらいしか無いですやんかと困惑してみたり、犬のウNコか猫のウNコのどっちか選べと言われて絶望してみたりとか。
そんな具合に、中には選択肢なんて殆ど無いぜって場合も有るのだけど、それでもまぁまぁ多くの場合は沢山の選択肢を用意してくれてる。
セブンイレブンなんて、場合によってはセブンイレブンを中心に右向いても左向いても道の向こうにもセブンイレブンを用意してくれたりする。
選び放題のセブン天国だ。
セブンのオーナーには地獄以外の何物でも無いだろうけど。

 

そんな選び放題な世の中なのだが、それでも取り得る選択は必ずしもベストとは言えない場合が有る。
ミスや無知による選択の誤りも有るのだが、選択を誤ってるのは重々承知しながらも故意的に誤った選択を取る場合もまた存在する。

舗装道路しか走らないのにセローに乗ってみたり
マズいのは解っていながら大手ハンバーガーショップに行ってみたり
本当はアルマゲドンが見たいのに格好つけて辛気臭いヨーロッパ映画を見てみたり
本当はデラべっぴんを買いに本屋に行ったのに、レジが女の子だったのでニューズウィークを買ってしまったり

選択を誤ってるのは重々承知しながらも、それでも故意的に誤った選択を取る場合もまた存在する。
なんとなくな場合も有れば、仕方ない場合も有れば、窮余の策な場合も有れば、理由はいろいろ。

 

 

その昔、私は変な車が好きだった。
乗ってたのは、まぁそれほどに変では無いけどミニ。
最初は1000のメイフェア。
修復困難な故障に見舞われて次に買ったのが1300のクーパー。
キャブ付いてた最終のモデル。

メイフェアとクーパーは何が違うか、ってのは、まぁアレだ。
名前とか、エンブレムとか、雰囲気とか、まぁそんなところ。
つまり、気分。

 

ミニはそれほどにヘンテコとは言えないけれど、さりとてそれほどに普通とも言えないのもまた確か。
そんな微妙な立ち位置のミニに乗ってた頃、同じような車に乗ってる人達と良く遊んでいた。
ジュリアJrやジュリアスーパーだったり、ミニの派生モデルとも言えるライレーだったり、チンク乗ってた人も居たし、エランなんて豪華な車に乗ってた人も居た。
大して中身の変わらないTipoを義務のように毎月買い、用事も無いのにリンドバーグに行く、そんな人たち。
ちなみにエランの人のあだ名はユーノス君だったのは懐かしい話だ。

皆様、そんな一風変わった古い車をわざわざ選択して乗ってたのだが、日常での使用は、大体の場合においてはトヨタやニッサンの中古車ディーラーに並んでる同価格の車に比べ、当然ながら大幅に劣ってる事が多い。
機能や装備や性能だけでなく、安全性や信頼性も大幅に劣る。
私のミニも一度、炸裂音と共にボンネットの隙間から炎を上げた事は有ったし、とある旧車に乗ってた人は同乗者全員が突然強烈な頭痛と嘔吐に見舞われた事が有ったりとか。
ある意味走行中だったからまだマシだったのかも知れない。
渋滞中なら死んでたかもね。
エキマニのクラックは放置したらいきなり死にかねないので注意が必要だ。
大気汚染物質を大量に吐き出す上に、バルクヘッドに穴が一杯空きっぱなしの古い車なら尚更に。
私のミニもドアを開けたらガソリン臭かったもんだよ。
ちょっと不安に成るくらいに。

ミニと言えば、バイクのエンジンみたいなエンジンとミッションが二階建てに成ってるコンパクトな構造だとか、とても追突されやすいリアフェンダー付近にガソリンタンクが有るとか、そのガソリンタンクはトランクの中でバッテリーと同居してるとか、まぁ良くも悪くも色々と特徴はあるのだけど、サスペンションもまた独特。
ラバーコーンと呼ばれる、スプリングの代わりにゴムの塊で衝撃を吸収してる構造。
その当時、まだコイルスプリング化が一般的ではなかった時代なので、ラバーコーンのままだった私のミニはちょっとした段差でぴょこぴょこ跳ねてた。
知能が低かった私は車高を下げる為、その只でさえ跳ねるゴムをさらに圧縮すると言う暴挙に出ていた。
お陰でぴょこぴょこ。
完全に選択を誤ってる。

ストロークって概念がほぼ無い分、コーナーであっちやこっちに車が揺れる事は無くて峠では本当に楽しい車だったのだけど、ちょっとしたギャップでえらく跳ねる車だった。
某有名走り屋漫画のように、ドリンクホルダーに波々入った文太の検尿コップをセットして豆腐を配達しに行ったら、駐車場から出る時の段差で車内と豆腐は文太の尿まみれに成っちゃうレベル。
テリーマンのような的確な解説を披露してくれるさしもの涼介も、これにはただただ苦笑いですわ。
そんな車。

 

ピョコピョコ跳ねるとか、エアコン付ける度にアイドリング調整しなきゃ成らないとか、酷暑の渋滞にハマったら暖房つける覚悟が居るとか。
何かと困った事の多い車だったが、私はあえてそのミニに乗っていた。
どう考えてベストな選択とは言えないのは重々理解しつつ。
どう考えてもシビックやマーチやワゴンRの方がイイよね、ってのは十二分に理解はしつつ。

それでもそれでも、私の車はアイドルアップさえ適切に作動したらエアコンは効いた。
アイドルアップとは、エアコンを作動させた際にコンプレッサーを回すのにパワーが食われる為にアイドリングが下がるので、それを補う為にアイドリングをちょい上げてやる機能。
言ってもキャブのスロットルリンケージを、バキュームで作動したダイヤフラムによってぴょこりと飛び出た棒で押すだけなので、場合によってやたら回転が上がりまくる事も、またあんまり上がらずエンスト寸前な事も有ったので、場合によって道端で再調整する必要が有った。
だけど、それでもまぁまぁ一応は夏でも使える車だった。
オーバーヒートすると暖房つけたら温度が下がるって、そんな恐ろしい行為は幸いにして行った事は無いけれど、それでもまだクーラーも暖房も効く車では有った。
コア増しして電動ファンに替えてたからオーバーヒートもまぁ大丈夫だったし。

だから、クーラーは効くし暖房も効く。
ステアリングは重くて窓ガラスはクルクルハンドルだけど、空調が効くだけで十分に幸せだ。
周囲には空冷エンジンだった事も有り、暖房さえ殆ど効かない車も居たのだから。
クーラーなんて最初から無い。
それどころか屋根も無い車も。
時には屋根どころかドアさえ無くて、雨降ったからと幌着けたら人が乗り込めない車さえも有った。
わざわざそんな車を選択してるのだから、気は確かかと周囲の人たちはきっと思う事だろう。
ああ、本人もそう思ってるさ。

ちなみに私の旦那さんの車がそれで、ドアも無ければ幌を着けたら人が乗れないスーパーセブンって車。
おまけにサイドブレーキは何故か助手席の足元に有ったので、運転中は手が届かない困った車だ。
ん?エアコン?
ははは、ご冗談を。
ドアも無い車にエアコンが有ると思う方がどうかしてるぜ。

このスーパーセブンって車。
過去に横に乗ってえらい目に遭わされ苦い思い出しか無かったのだけど、後年に改めて自分で運転したらとても楽しいは確かに解った。
スポーツカーってのは乗ってる本人だけが楽しめるのは常だけど、その極みに有るのがスーパーセブンなんだろう。
自分ひとりで運転したらこの上なく楽しい。
乗りたくも無いのに横に乗せられる人に取っては、拷問以外の何物でも無いのだけど。
そして、後年に乗ったセブンはセンターコンソールにサイドブレーキの付いた仕様だったので、4点ハーネスしててもサイドブレーキに手が届く、ってだけで凄く便利に成ったもんだと、超絶低いハードルながらちょっと感動した。
ただ、やっぱりどう転んでもデートには向いてない。
えらい事に成っちゃうので、デートカーとしての選択は取るべきではない。

 

と、そんな、エアコンはおろか屋根もドアも無い車とか、場合によって年の2/3くらいは修理工場に入ってて、乗るのはイベントか車検場に行く時だけ、と、そんな何の為に持ってるか解らない車も有った。
そんなヘンテコな車が集まる中、ひときわ異彩を放つ車が居た。
それはカムリ。
トヨタのカムリ。
お父さんから借りたカムリ。

全く何の変哲も無く、ショッピングモールの駐車場に停めたら都市迷彩のように溶け込んで何処に行ったか解らないくらいに地味な車。
だが、エランやMG、空冷ポルシェやスーパーセブンの中に混じると、一転して凄い存在感を発揮する。
梅田でギリースーツを着るみたいなもの。
場所によっては迷彩でも、場所が変われば逆に凄い存在感を発揮する。
そして車に分乗して何処かに出かける時の一番の人気車がこのカムリだった。
ポルシェより、アルファより、スーパーセブンよりも、カムリ。

ミニのようなクイックなハンドリングも可愛いルックスも無い。
エランのような軽量ボディによるレスポンスも無い。
アルファのようなセクシーなルックスも卓越した足も無い。
空冷ポルシェのような荒ぶるRRをコントロールする征服感も無い。

ただのトヨタの中古車。
ただのオートマ。
でも、ボタン押したら窓が上下するし、車内は静かだから快適に音楽も聴けるし、エアコンも良く効くし、乗り心地もタクシーみたいで抜群。
ただのありふれた量産型ミドルクラスセダンだけど、普段乗ってるゴムの塊のサスペンションの車からしたら雲泥の差な訳だ。
素晴らしい。
お陰で、エラン乗りもポルシェ乗りもアルファ乗りもミニ乗りも、みんなみんなこのカムリに乗りたがった。
うちわ片手にバケットシートに沈み込んでる人たちを後目に、エアコン効いた後部座席に座るのは快適だったから。
そして何時しかこう呼ばれるようになった。
尊敬の念を込めて、カムリ様と。
乗り合わせてファミレスに行くならベストな選択肢。
それがカムリ様。

このカムリ様。
何の変哲も無いただの中古車だけど、実は一点カスタマイズが施されていた。
それは内装。
通常の布地から、レザーへと変更されていたのだ。
つるつるしたレザーに。

これは、このカムリ様のお父様が自分で生地を買ってきて縫って作ったらしい。
型紙を作って裁断してミシンで縫ってと、これがかなり素晴らしい出来栄えで、私の擦り切れたコルビューも直して貰おうか、なんて話もしてたくらい。
勿論フェイクレザーだけど、その出来栄えは本当に素晴らしかった。
『犬がシートの上でおしっこするから掃除しやすいビニールレザーにした』
と言う理由さえ聞かなかったらもっと良かったのにと悔やまれてならない。

 

ともあれ、乗り心地も良く、エアコンも効いて、窓はボタンで開閉して、さらに犬のおしっこも拭きやすい。
そんな素晴らしいカムリ様。
そして何時しかこう呼ばれるようになった。
最大級の尊敬を込めて、革カムリ様と。

改めて思うね。
やっぱ車って、安心と快適が一番大事な事なんだろうと。
それが正しい選択って奴なんだろうねと。
ノンサーボで只でさえブレーキの効かないミニを、見てくれ優先してホイールをインチダウンする為ディスクローターを小型化させるのは、どう考えても正気の沙汰とは思えないわ。
只でさえブレーキの効かない車を、わざわざ金を掛けてさらに効かなくするなんて、気は確かかと思わずには居れないね。
我ながら。

 

それから月日は流れて、今の私はもはや鍵すら使わないどころか、アクセルさえ踏まなくても一定の条件下では自動で運転してくれる超絶快適な車に乗ってたりするのだけど、それでも今でも思う。
やっぱミニ買おうかなぁって。
どう考えてもすべての面で今乗ってる車が勝ってるんだけど、それでも懲りずに思ってしまう訳だ。
そんな事を。
どう考えても選択を誤ってる、そんな事を。
でもね、誤った選択ってのも、それはそれでちょっと楽しいものでも有るんだよ、これが。

 

 

本題に入る前に力尽きたので、次回へ続く

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy