悪癖の継承

『ったく、お前はそんな事も知らんのか?』

センパイは、呆れたような口調で後輩にそう言い放った。
ある日のバイクワールド店内の休憩スペースにて。

 

ダブルクラッチ。
センパイが熱く語りだしたのはダブルクラッチについて。
ご存知な方も多いだろう、シフトアップ時に用いる高等テクニックだ。

 

加速状態からスロットルを戻すと共にクラッチを切る

シフトアップしながらスロットルを一瞬だけ開けて直ぐに閉じる

クラッチを繋ぎスロットルを開ける

 

そんな高等テクニック。
上り坂でのシフトアップでトラックやバスの運ちゃんが時折使う高等テクニック。
上り坂で負荷が高いのにスピードが低く、さらに回転数が下がった状態でシフトアップしてクラッチを繋いだらエンストするので、回転数を高く保つ意味でクラッチを繋ぐ前にスロットルを開けてやるって事だ。

平地を走るバイクでやるのは、気分が盛り上がるとかって類の意味合いしか無い。
主にメンタル面の話だね。
失速するとか、余分にガソリン使うとか、煩いとか、クラッチにも悪影響有るかもね、ってデメリットは多いがメリットは特に無い。

でも、この高等テクニックをバイクで披露してくれる人は決して少なくない。
一体何をアピールしてるのかは知らないけれども。
中にはスクーターでも居たりする。
加速する際、事前に一回スロットルをバブン!と煽ってから加速する人が。
パーシャルからバブン!と煽って再加速。
スロットルオフからも勿論バブン!と煽って再加速。
ゼロ発進なって言うまでも無くバブン!

普通にスロットルを開ける方が全てにおいて勝ってると思うのだけど、何の理由かバブン!バブン!と。
きっとそれが脳か心か体のいずれかに刻み込まれてるのだろう。
焼肉をご飯の上にワンクッションさせて食べる人と同じく、その所作が刻み込まれてるのだろうと思う。
他人が、良いの悪いの言った所で始まらない。
でも只の悪癖なので、センパイから後輩へはそんなのを継承されない事を祈るばかりだ。

 

ちょい前の真夜中、朝まで我が家で何人かの友人と喋ってた事が有る。
別に泊りに来てた訳では無いんだけど、ポテコを食べながらなんとなく喋ってたら何時の間にか朝だったってだけの事。
夏休みの高校生みたいな事やってるけれど、皆様まぁまぁイイ歳してる。
ああ、そりゃスマンかった。

 

経緯についてはいまいち覚えてない。
きっと真夜中のテンションだとか、その類の低級悪魔の仕業なのだと思うのだが、夜明け前の変な時間帯にこんな事を言い出した人が居た。
デンタルフロスや歯間ブラシを使ったらついつい臭ってしまう。
と、そんな妙な事を言い出した人が。

まぁ、成果で有ったり釣果で有ったり、何かしらの結果を確認したいって気持ちは解らないでも無い。
ボーナスの明細から尻を拭いたトイレットペーパーまで、何かしらの結果を直ぐに確認したいって気持ちは解らないでも無い。
解らないでも無いけど....なんか変だよ、それはちょっと。

 

そんな夜明け前の戯言は過去へと過ぎ去って数日。
朝晩、歯磨きする度にそれを思い出す私が居る。
フロスを使う度、その日の何気ない明け方の寝ぼけた会話を思い出し、何と無く戦果を臭ってみたくなる、そんな困った私が居る。
クンクンしたい!
そんな困った衝動に日々駆り立てられる私が。
今にもフロスを臭ってしまいそうな、そんな悪魔の囁きに乗せられてしまいそうな私が居る。

 

悪癖は継承されるのか?
今のところは我慢してるので大丈夫。
今のところはまだ大丈夫なんだけど....
明日は、どうだか。解らないな。

 

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy