彼はオートバイ、彼女は暇

2020年8月31日

-月曜の朝-

日本全国の多くの人に取って憂鬱な朝。
月曜の朝。
月曜の朝が楽しみだなんてのは、余程学校が大好きな小学生か散髪屋(関東を除く)くらいなものだ。

だが、そんな月曜の朝もオサムにはハッピーだ。
その理由はただ一つ。
そこにバイクが有るから。
理由はただそれだけ。

憂鬱な朝も、こいつに乗れればハッピーだ。
ホンダ オサム(35)は、この日も愛車のCB400SFに跨り勤務先へと向かう。
バイクに乗る、そんな小さな至福に包まれながら。

 

-木曜の午後-

仕事を早めに切り上げたオサムは、帰りに馴染みのバイク屋へと向かった。
目的はオイル交換。
日々頑張ってくれる直4エンジンを労わるように、新たな血液を満たしてやる。
これでまた機嫌よく走ってくれるだろう。

その後、何時も行ってる空港近くのコンビニへと向かう。
友人と合流し、週末のキャンプツーリング計画を練る為に。
久しぶりのツーリングに滾らざるを得ないオサムだった。

 

-土曜日の早朝-

オサムは、まだ明け切らない空を見ながら、ひたすら高速道路を西に向かった。
水冷直4エンジンは今日もすこぶる調子は良い。
流石に深夜の首都高湾岸線でポルシェを追い回すには力は及ばないが、普通に走る分には何ら不満は無い。

リアシートにキャンプ道具を一杯に積んだオサムは、前を走る友人の駆るニンジャ400に装着されたパニアバッグに目を奪われた。
ボーナスが入ったらやっぱアレ買おうかな。
否、それかやっぱいっそ1300SBに買い換えるか?
ボーナスの使い道をあれこれと思い巡らすオサムだった。

 

 

-日曜日の夜-

片道250km、往復で約500kmの行程。
高速道路を使ったと言っても、やっぱり疲れる。
腰や首の疲れを癒すべく湯船に浸かる。

ベッドに横に成るや否や、オサムは深い眠りへと落ちた。
道程やキャンプ場でのひと時を思い出す暇も無く。

 

オサムの月曜日は再び始まる。
愛車のCB400SFと共に、オサムのバイクライフは今週もまた始まる。

さて、来週は何処へ行こうか?

 

 

こんな生活を送ってる人は決して珍しく無いのだろうけど、問題はオサムに家族が居た場合の事。
法的に家族ではなくても、誰かしらの親密な関係を構築する、しなければ成らない人が居た場合の事。
愛するのはCB400SFと蒟蒻と春麗だけだ!、と言うスパルタンな生き方してる人ならその限りでは無いのだが、生きた人間と人生を共有する人に取っては、中々このような生き方は難しい。

これは付き合い始めの頃から抱える大きな問題。
1日は24時間な事は決まってるので、今まで一人で自由気ままにバイクに乗ってた人は、誰かと時を共有する時間を取られると、そう言う訳にも行かなくなってしまう。
日曜日どこか行こうよ、と言う彼女に対して、日曜日は別に用事無いけど道の駅行って来るわと答えたら、恐らく人間関係は破綻する。
月に一度の事ならともかく、毎週毎週やられたら、そりゃちょっと困ってしまう。
そもそも、彼女にとってはわざわざ道の駅に行くって時点で理解不能なのだから。

 

我家の場合は夫婦でバイクに乗ってるのだが、これは非常に恵まれたレアなケースだと思う。
実際、私の周りですらもかなり少数の事。
多くの家庭を持つ男性の皆様は、仕事と家庭とのバランスを取りながら、色んな所との折り合いを着けながら、どうにかこうにかバイクに乗ってるのが実情。
だから、2週間も家を放ったらかして北海道に行ったり、週末はタケノコ掘る訳でも無いのに山の中を掘り返しながら走りに行ったり、コンビニに行って来ると言い残してZX10Rの契約してきたり、なんて事は世間の家庭では許されない事を是非とも肝に銘じて欲しいと思うな。
あなたは大層恵まれてるのだよと言う事を。
お互いに、な話なのでとやかく言わないけども。

 

ただ、子供が居たらやっぱそう言う訳にも行かないだろうな、とは思う。
子連れでもバイクに乗るのは可能なんだろうけど、自由か不自由かと言えば、そりゃ勿論な話。
物理的に色々と連れて行ける分だけ、カメレオンや猛禽類や大型哺乳類を飼う事に比べれば自由なのだろうけど、それでもバイク乗って小さな子供を連れて行くってのは中々難しい。
危ないし。
心配だし。
そもそも嫌がるし。

 

だから取るべき手段は2つ。

一つはバイクに乗らない。
もう一つは子供を奥さん、もしくは誰かに任せて自分一人で遊びに行く。

結局はこの2つ。
どっちも無理なら、この2つのバランスを上手く取る必要が有る。
フロントのスライドコントロールをするマルケスのように、絶妙なバランスを。

超バイクに乗りたいマンな人が一切バイクに乗れなく成るのは不幸だし、かと言ってオレは毎日汗水垂らして働いてんだよと昭和おじさんみたいな事言って面倒ごとを奥さんに任せっきりってのは今時通用しない。
上手くバランスを取る必要が有る。
どうにかこうにか上手い事。

 

私の周囲に、半年程前にベビーが生まれた人が居る。
私の交友関係なので、彼もバイクに乗ってた人。
別にCB400SFに乗るオサム君では無いが、その昔はホーネットに乗ってた人。
大昔に書いた事の有る、板金でタンク修理したホーネットの持ち主。
今はもっとデカいのに乗ってる。

彼のご家庭では半年程前に第一子が誕生したのだが、流石にそれ以来絶賛自粛中。
この状況で流石にバイク乗って出掛けるなんて真似は難しい。
そして、残念ながらバイク通勤も不可。
上記のオサムのようにバイクで通勤が出来るならまだ随分マシだったかも知れないが、普通はそんなの許しちゃくれない。
残念ながらそれが現実だ。
だから、かれこれ奥さんのお腹が大きく成った頃から殆ど乗れてない。
車検は取ったのに、ちょっとも乗らずにカバー掛かったまま、次の車検を迎える事に成るかもね。

このような事情を抱えてる人が居たら、周囲も何かと気を使う。
用事も無いけど道の駅行こうぜ、磯野!
って気楽に誘うのはちょっと気が引ける。
かと言って、全く知らん振りするってのも、人間関係が切れてしまいそうでそれはそれでなぁって。
会話するにも、誰それが新しいバイク買ったよ、なんて話もちょっとしにくい。
だからとベラルーシ情勢の話をした所で困ってしまうだろう。
私もちょっと困ってしまう。
ベラルーシって何処よ?って。
本人も難しいが、周囲も何かと難しいもんだ。

 

結局、解決策なんてものは無い。
上手い事折り合いを着ける事しか選択は無い。
夜や早朝にちょろっと出掛けるとか、月に一度くらい自由時間を貰うとかって、その辺でどうにか折り合いを着けるしか手は無い。
もっとも、人間関係の諸問題に明確な解決策が有る方が珍しいのだから、そりゃ仕方無いってもんだよ。

だから、もうちょっと辛抱して色々と落ち着いたら、上手い事バランス取って欲しいと思う。
ホーネットをバタバタ倒してタンクをボコボコにしてた彼には少々心配な話だけど、まぁ大丈夫さ。
きっと。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy