不可逆な時の流れに

私は、この不可逆な時の流れに絶望した。
この無情な現実に絶望した。

 

阪神高速湾岸線。
この日私はR1で湾岸線を南へと走っていた。

目的地は湾岸線終点の泉佐野。
この日、関空から帰ると言う友人に数年ぶりに会う為、関空対岸の泉佐野りんくうタウンへと走っていた。

神戸の深江浜から湾岸線へと乗った私は、何やらちょっとした違和感を感じていた。
何となく、チクチクとした違和感を感じていた。
左足のくるぶしの辺りから。

時折シフトアップし、時折シフトダウンし。
高速道路、正しくは自動車専用道と言えども時折左足を使ってると、その度にチクチクとした違和感は増していったのだ。
そして程無く、違和感では無い、ハッキリとした異物感として認識するまでに。

あ、これ着いたままだったかも。

プラスチックのアレ。
もやしみたいなアレ。

 

この日履いてた靴下は新品の靴下。
別に久しぶりに顔を合わす友人と会う為、って訳でも無いのだけども、そんな気合入れまくってる訳でも無いのだけど、ともかく新品の靴下。
馴染みのインポートブティックで買った、3足680円(税込み)の靴下。
カンボジア製。

 

それをハッキリと認識し、それを完璧に自覚したのは尼崎の料金所を過ぎた直後の事。
ETCゲート前のちょっとした渋滞で左足を着き、その後再発進した直後の事。
『プラスチックのアレ、着いたままだわ』
と、私がハッキリと認識したのはその尼崎の料金所を過ぎた直後の事だった。

困った。
ああ困った。

この日履いてたのは革のショートブーツ。
阪神高速を走りながらブーツを脱いで靴下に刺さったプラスチックのアレを外して再びブーツを履いて靴紐を縛りなおす、なんてそりゃ無理。
ギッチギチにシューレースで縛ったブーツに、ゴツゴツしたグローブの指を突っ込む事も不可能。
素手ならワンチャン有るかな?って気もするけれど、これまた走りながらグローブを脱ぐのは難しい。
皿回しすら出来ない私にそんな器用な真似は不可能だ。
人はそんなに器用に成れないんだとアムロも言ってたし。

次のパーキングは泉大津。
これから大阪南港を越え、アマゾン倉庫を横目に堺市に入り、さらにその堺市を越えた先。
遠いね。
泉大津、遠いね。

 

コタツの電気と玄関の鍵と同じく、靴下に刺さったプラスチックのアレは一度気に成ると際限なく気に成ってしまう。
かと言って、阪神高速にはちょい停める所なんて無い。
非常駐車帯は有るけれど、靴下にプラスチックのアレが刺さってると言う非常事態だけど、きっとブーツ脱いでプラスチックのアレを外す行為は認められてないんだろうと思う。
って言うかあんな所に停めるのなんて怖いからヤダよ。

 

私は、この不可逆な時の流れに絶望した。
この無情な現実に絶望した。

ああ、さっきの料金所を出た直後にバイクを停めてブーツ脱いでプラスチックのアレを外しておけば良かった。
そもそも靴下履いた時に、そして玄関でブーツ履いた時に気づくべきだった。
やっぱ車で来れば良かった。
靴下なんて履くんじゃなかった。

今さらどうしようもない事をクヨクヨと悔やみながら、左足首のチクチクがどうにか改善しないものかとモジモジしてた。
まるで尻にもやしが挟まった人のようにモジモジと。

 

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy