6歳のジョージは自分で切った事を親父に謝罪した
Such an act of heroism in my son, is more worth than a thousand trees
我が息子の勇気有る行動は1000本の木よりも価値が有る
ジョージが6歳の時、父親のオーガスティンは尋ねた。
『庭の桜を切ったのは誰か知ってるか?』
と。
6歳のジョージは答えた。
『ダディ、正直スマンかった、切ったのは僕だよ』
と。
その答えを聞いた父オーガスティンは、ジョージを抱き寄せ嬉しそうに言った。
『正直に言ってくれて嬉しいよ、ジョージ。
我が息子の勇気有る行動は1000本の木よりも価値が有る』
ジョージ・ワシントンが桜を切ったとか、いや実はそんな話はただのフィクションだよとか、まぁ色々と言われてるけれど勿論そんな昔では無く、まぁまぁ昔の事。
まだ殆どのバイクの吸気系にはキャブが付いてた頃の事。
VJ21A、RGVΓ。
私も持ってた1989年式の2ストレプリカ。
あんまり乗ってなかったけれど、頻繁に分解してたバイク。
それがVJ21A。
一時はエンジンアッシーを2機、シリンダーやピストンもかなりストックしてたのだけど、何年か前に最後のシリンダーとピストンを出荷して残念ながら打ち止め。
もう手元にはキャリパーくらいしか残ってない。
あの、ガックン!ってブレーキの掛かるトキコのキャリパーくらいしかもう無い。
『ちょっと乗ってもイイ?』
ある日、退屈な毎日を打破したかったのか、日々温いバイクに乗ってる人がVJ21Aの傍らで私にそう声掛けてきた。
制限速度40~50km/h程度。
一般公道を走るにおいて、バイクなんて125ccも有れば事足りる。
でも、ライダーってのは困った生き物で、そんな事は重々承知してても時折無性にはっちゃけたバイクに乗りたくなる。
街乗りでは125ccのスクーターで何ら不満は無いのに、ついついハヤブサを買ってしまったり、なんて事も。
こんなバイクで何処を走るねんって言われながら。
そんな事は自分でも解ってるわとか思いながら。
勿論VJ21Aはそんな超絶パワーなバイクでは無い。
公称45PS。
実際には50PSとも70PSとも言われるけれど、それでも180PSオーバーの超絶モンスターと比べると大したパワーでは無い。
でも、2ストに乗った事の有る人はご存知なように、あのゴルフクラブでフルスイングされたかの、弾けるような加速感はパワー自慢の他のバイクとは一線を画す。
パワーだけで言えばR1が圧倒的で、勿論スピードも話に成らないくらいに圧倒的だけど、身の危険さにおいては2ストの勝ちと言えそう。
ああ、こりゃ死ぬわ....って感じが。
R1はR1で、どっちみち似たようなモノなんだけどね。
そんな訳で、何時もはカレーの王子様のような甘口バイクに乗ってる彼だが、時に癖の強いスパイシーなカレーも食べてみたい衝動に駆られたようで、上記の発言が飛び出した。
生まれて初めての2スト250ccに乗ってみたい、荒くれモノに乗ってみたい、そんな衝動に駆られたようで、上記の発言が飛び出した。
『ちょっと乗ってもイイ?』
と。
シュパ!
『アタシのマシンに乗りたいのかい?好きにしなよ、まともに乗れるものならさ』
と言ったかどうかはさておき、保険入ってるからら好きにしたらイイよと鍵を投げ渡した。
そんな生臭い事を言ったかどうかは別として。
シャコン....シャコン....シャコン.....
必死にキックすれどキックすれど、一向に目覚めないエンジン。
何度キックしてもちょっとも目覚めないエンジン。
『あれ?カブってる??』
と、この場に浪花のモーツァルトが居たらキーボードでブン殴られかねない不穏当な言葉を発しながら、エンジンが掛からない事を訴えかけてくる。
基本的に2ストなんてちょっとした事ですぐにカブる。
そんなの日常茶飯事。
エッブリィシングにティーミールマターな訳だ。
でも、ちょっと位カブった所でエンジンは掛かる。
真性にカブってたらちょっとアレだけど、仮性なら特に問題は無い。
ちょっとカブった所でどうと言う事は無いさ。
自信持って大丈夫だよ。
ファイト!
だからこのVJ21Aもちゃんと掛かる筈。
だってさっき私が乗ってたんだから、そりゃ掛かるさ。
通常、キック一発で掛かるんだから。
『キーはオンにしてる?』
当たり前だけど、セル回さないバイクは意外とやってしまいかねないドン臭い事してないかを確認してみる。
昔に居たんだ。
炎天下、キーをオフにしたまま延々とXRをキックしてた人が。
『ちょい貸してみ』
やれやれ、温いバイクばっか乗ってるキッズは2ストのキックスタートすら出来ないのかい?
とでも言いたげに、VJ21Aに跨ってハンドルを見たらキルスイッチが切れてた。
あれ?
何時の間にか切ってたわ。
ジョージは自分で切った事を親父に謝罪したけれど、私は涼しい顔してさりげなくキルスイッチをオンにして、何事も無くキック一発でエンジン掛けるのだった。
『な、一発で掛かるだろ?』
と、必要以上に自慢気に言いながら。
キルスイッチを切った事なんて白煙と共に有耶無耶にしながら。
6歳のジョージは自分で切った事を親父に謝罪し、リキはキレちゃいないよと半笑い浮かべながらそう主張する。
私は取り合えず有耶無耶にしておくと言う選択を取ったのだけど、アメリカ大統領にも革命戦士にも成れる器じゃ無いから仕方ないさ。
ん、まぁ何度かキックして掛からなかったらキルスイッチを確認しようよ、って事だね。