じこまん

ちょっと難しい事をするのが好きな人が居る。
なんか、ちょっと難しい事するのが好きな人が。

オーディオのイコライザーをマニュアル設定したり、スピニングリールを分解したり、このご時勢に銀塩カメラを使ったり、魚を三枚卸したり。
等など。

 

それがどうしてもしなければ成らない場合も有れば、単なる趣味な場合も有る。
だが共通してるのは、このちょっと難しい事をやり遂げた達成感は、何とも言えない満足感を与えてくれる。
ジコマンがパンパンですわって感じに。

ただ、これらはあくまで『ちょっと難しい』場合。
余りにも難しいのは、自己満足を得る前に挫折感を、或いは余りにも大きな絶望を味わってしまうので、あくまで『ちょっとだけよ』に留めておくのが賢明だ。
より大きな自己満足を得たいからと、お父さんの車のATミッションを分解したり、核爆弾を作ったり、お母さんの寝室に忍び込んで女体の神秘を探求したり、なんて無茶は控えた方が良さそうだ。

何事も程ほど。
程ほどで留めておくのが良いと思うな。
ブリを三枚卸したり、鉄フライパンの薀蓄語ったり、なんて程度に留めておくのが。
生きたスッポンを捌いたり、ヤギの肉をバナナの葉っぱに包んで土に埋めて蒸し焼きにする料理とか大変だからね。
程ほどで留めておくのが良いと思うな。

 

バイク界にはこのじこまんプレイは非常に多い。
じこまんの宝庫とも言える。
じこまんだらけ。
乗るだけで無く、見て触るだけでもじこまんが沢山。

バイク整備の世界では、キャブセッティングが非常にじこまん度が高い。
4気筒の同調からFCRのセッティングまで、バッチリに仕上げれたら非常に自己満足度が高い。
俺って、僕って、私って、ちょっと難しい事をやり遂げれて凄いわぁって。
じこまんゲージがビンビンに上がってしまう事請け合いだ。

実際、4気筒の同調は非常に楽しい。
アナログメーターを睨むプロっぽい光景と、長いドライバー一本で済むお手軽さと、それでいて完璧に合わせれた時のエンジンのスムーズさに、非常に高い自己満足が得られる。
ほぼイキかけてしまう程に。
単気筒にしか乗ってない人には味わえない至福。
それが同調。

一方、キャブのセッティング、要するにミクスチャ=混合比の調整は結構敷居が高い。
じこまん度も高いが、敷居もまた高い。
キャブにもよるけれど、エアスクリュー、スロージェット、メインジェット、ノズル、ニードル、加速ポンプ....
これらでベストな組み合わせを探す作業。
キャブにもよるのだけど中々大変。
インドに自分探しに行く位に大変な作業だ。

 

1回1箇所の原則ってのが有る。
つまり、1回変更するのは1箇所だけ。
MJ変えてニードル変えてノズルも変えて....なんて一気に変更してたら、良くも悪くも何処が影響したか解らなく成ってしまうので、MJならMJだけ、ニードルならニードルだけと、1箇所に留めておくのが原則。
百戦錬磨な人ならその限りでは無いかも知れないけれども、それが一つの約束。

ただこれが、ちょっと変えるだけと言っても非常に大変。
ファンネル仕様の単気筒なら簡単なんだけど、スロットルポジションセンサーからキャブヒーターまで付いてるエアクリーナーボックス仕様の直4ホリゾンタル純正キャブは絶望的に大変。
キャブを引っこ抜くだけで一仕事なので大変だ。

外して戻すだけでも大仕事。
1回1箇所の原則!
なんて言われたらうんざりしてしまう。
一体、私は何回このキャブを押し込んだり引っこ抜いたりしなきゃ成らないのさと。
この非常にタイトなスペースに、ハーネスだらけの邪魔臭いキャブを何度付けたり外したりしなきゃ成らないのさと。

さらに問題は、CVKなんかの負圧キャブのセッティングをちょい変更した程度では良く分からないって点。
ガソリンタンクやら各種コネクタを外し、苦労して苦労してキャブ外して、フロートチャンバー開けてジェットをちょっとだけ変えて、再び苦労して苦労して苦労してキャブを取り付けて、再びガソリンタンクやらコネクタを戻し、それで試乗してもちょっと変えたくらいじゃ良く分らんって事も。
不幸にも不慮の事故により死亡した42歳童貞無職が、異世界で41歳童貞無職に転生するようなもの。
厳密にはちょっとだけステータスは変わったけれど、苦労した割にはあんまり変わらんよねって、そんな悲しい現実。
良くも悪くも鈍感な負圧キャブは、セッティングのちょっとした違いにもまた鈍感。

かと言って余りの劇的変化を求めすぎたら、大体は頓珍漢な方向へと行ってしまう。
42歳童貞無職が腐った死体に転生しかねないので、余りの無理は禁物だろう。
まだ元のままのが良かったわって。

流石に腐った死体では美少女に囲まれてキャッキャするような幸せな展開には進み難い。
いくらチート級の腐敗臭スキルを身につけたとしても。
まぁ無理は禁物だって事だよ。

 

現在、そんな楽しくも苦しいキャブセッティングに入ってるのがゼファー1100。
随分久しぶりのゼファー1100。
私がやってる訳じゃ無いけど。
ほぼ、家の中でじっとしてるし。

このゼファー1100。
以前は周囲にも何人か居たのだけど、今や一人だけ。
と言うか、そもそもキャブ付いてるバイクに乗ってる人が少数派だったりもする。
このゼファーか、GPZ900Rか、或いは私のセロー225か。
そんな所。
何時まで225やねんって、自分でも思ってるさ。

 

今回は幸いにしてカスタムフィルター仕様のFCR。
あの忌まわしい、後3cmでもバックしてくれたら!と恨めしいエアクリーナーボックスが無いだけで遥かに簡単。
と言うか、あのノーマルキャブは大変過ぎるわ。

と言う訳で、長年続けてきたノーマルから、急におしゃれデビューしたかのように、何を思ったのかFCR+ファサームを導入したゼファー1100。
急に髪を伸ばし始めた、引退した元野球部のように、何かいきなりのおしゃれデビュー。

幸いにしてセッティングデータは蓄積されてるゼファー1100。
マフラーはヨシムラしかデータは無いけれど、まぁ似たような物じゃないかと。
多分。
知らんけど。

 

ぶっちゃけ、入れるのはJB POWERのゼファー1100キット。
最初からセッティングがほぼほぼ出てる親切キット。
口径は一般的な37mm。
φ41なんて入れたらちょい苦労するかも知れないけれど、φ37なら大して苦労は無いかと。

さらに、ストリートではスローを触る程度で十分なので、そう延々と何度も分解したりもしない。
幾ら公証90馬力程度のバイクと言っても、そうそうブン回したりもしないだろうし。
あんまり回しても大して.....ねぇ。
ガソリンは撒き散らしてるみたいに減るけれど。

 

ただスロー系で十分と言っても、エアスクリューとパイロットスクリュー、スロージェットとジェットニードルまで触る所は多岐に渡るので、気が済むまでやって頂いたら良いと思う。
スロー系は手を掛ける程に良くなるので、思う存分じこまんしてくれたら結構だと。
どうせ当面誰も一緒に遊んでくれないので、一人で思う存分じこまんしてくれたら結構だと。
そう家の中から遠くを見ながら思う。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy