Choose Your Weapon

―アメリカ南部の寂れたモーテル

 

「なんだか薄気味悪いわ」

ケイトは、ボーイフレンドのクリスにそう言いながら、しぶしぶ部屋へと歩みを進めた。
無愛想なモーテル管理人の親父に指示された2階の部屋へと。

「ケイト、大丈夫だって。バンパイアでもエイリアンでも、何が出ても僕が守ってあげるよ、大学空手準々優勝のこの僕が」

クリスは、独立記念日のNYのように、盛大にフラグを立てながら爽やかに微笑んだ。

 

―中略―

 

ケイトとクリスは走った。
ただひたすらに光の有る方へ。

振り返ると、黒い影は今もゆっくりと近づいて来る。
幾つもの黒い影が。

ゾンビ。
まさかそんな有り勝ちなシチュエーションで有り勝ちな目に遭うとは。

「ま、まさかゾンビだとはね、流石の僕でもちょっと無理だ」

バンパイアやエイリアンになら勝てたのにと、クリスは走りながら叫んだ。
どうやら、この状況にかなり取り乱してるようだ。

 

―中略―

 

辿り着いたのはホームセンター。
人の気配の無い、深夜の大型ホームセンター。

モーテルの無愛想な親父も、他の客も、みんな凶悪なゾンビにやられた。
このままなら二人にも同じ運命が訪れるのは時間の問題だ。

「とにかく武器を探そう」

二人はガラスを破りホームセンター店内へと侵入した。
凶悪ゾンビと戦い、人として明日を向かえる為に。

―後半へ続く―

 

 

Choose Your Weapon

生き残るのに武器の選択は非常に重要だ。
それはゾンビから逃れるケイトとクリスだけでは無く、激動の社会から、混迷極まるこの世界から生き残る為の武器選択もまた非常に重要と成る。

 

例えば、MotoGPライダーならバイク選択が何より重要と言える。
もしマルク・マルケスがCRTから始まってたら今頃どうなってかは解らないのだから。
市販車エンジンを積んだスッターからファクトリーまで上り詰めたペトルッチのように、いずれは上がって来てただろうけど、人生はきっと大きく変わってただろうと思う。
最初の選択でインケツ引いてたらエライ目に遭ってただろうと思う。
レディングのようにやさぐれてても不思議じゃないかも。

乗りたいバイクを能動的に自分で選択出来る立場の人間はほんの数人しか居ないのだが、それら以外のライダーも、自分が取り得る選択肢の限りで最適な解を掴む必要が有る。
最高峰クラス世界チャンピオンに成れる可能性を大いに持ちながらも、幾つかの選択ミスでその機会を失ったメランドリのように、ほんの少しの選択ミスがその後のキャリアを大きく左右する事も有るので、十分に熟慮を重ねて正しい選択を掴みたい。
最も適切な武器を手にしたい。

 

カメラマンに取ってのカメラ、CG製作会社にとってのワークステーションやレンダリングサーバー、医者と結婚した友人の結婚式二次会に参加する独身女の戦闘服とキャラ設定。
それぞれ人生や組織を大きく左右しかねないので、最も適切な武器を選びたい。
自分にとって最も適切な武器を。

 

現在、日本一周を計画してる人が私の周りに一人居る。
日本一周は、それを達成した人は何人か居るのだけど、皆様まぁまぁ昔の話。
ジェベル250が新車で売ってる頃だったり、或いはセローがドラムブレーキだった時代だったり。
まぁまぁ古いお話。

 

Choose Your Weapon

何のバイクで日本一周に行くか。
中古車から新車まで、数多くのバイクが、数多くの選択肢が有る現在、日本一周するのに最も適したバイクは何か。
それが大きな問題だ。

現在、彼が乗っているのはZZR1400。
彼のとは年式は異なるが、私も近所のスーパーにネギ買いに行くのに使ってるゴツいバイク。
ハッキリ言って凄い。
乗り心地も快適だし、荷物もやたら積めるし、燃費も良いし、それほど熱くない。
超ロングツーリングするのにこれより適したバイクは無い、って位に素晴らしい選択だろうと思う。
ネギ買いに行くにはちょい大袈裟が過ぎるけれども。

ただ、ライダーってのは余りに快適が過ぎるのもそれはそれで拒否してしまう、厄介な性質を持ってる事も有る。
実際、私の周囲の日本一周した人たちの過半数はスーパーカブだったりする。
同じように当時世界最速のツアラーで有ったZZR1100に乗ってた人でさえ、スーパーカブにテントと銀マットやらをてんこ盛りに積んで北海道から沖縄まで走ってたのだから。
金が無かっただけ、かも知れないけど。
燃費は違うしね。
フェリー代も随分違うし。
選択肢が最初から除外されるので高速代も要らないし。

モロモロを考えたらZZR1400は無いかな、ってのが今の結論。
快適だけど、快適なんだけどなぁ。

 

ある意味ではスーパーカブは日本一周するのに最も適した武器と言えるのかも知れない。
出発前に一通りメンテしておけば、日本一周したくらいじゃ壊れないだろうし。
って言うか、一番多いかもしれない。
スーパーカブを選択する人が。
今なら110が最適解だと私は思うな。
少なくとも....

 

 

「とにかく武器を探そう」

ケイトとクリスの二人は、コンクリートブロックでガラスを破りホームセンター店内へと侵入した。
凶悪ゾンビと戦い、人として明日を向かえる為に。

静まり返ったホームセンターに侵入した二人は、凶悪ゾンビと戦う武器を探すべく店内を手分けして物色した。

ケイトは銃火器コーナーへと向かい、狩猟用ショットガンを手にした。
彼女自身、銃を撃った経験は無いが、彼女の父親は狩猟が趣味だったので馴染みは無い訳では無い。
なんとなく使い方は知っている。

ハンドガンよりも当たる...かな。
狩猟用12ゲージショットガンを片手に弾を探していると、遠くからクリスの叫び声が聞こえた。

「クリス!」

ケイトはバックショット(Buck Shot)と呼ばれる鹿撃ち用の装弾を手に、クリスの元へと走った。
巨大なホームセンター、その遥か奥に、クリスと今にも彼に襲い掛かろうとしてるゾンビの群れが目に入った。

ケイトは銃を構えた、だが遠い。
最大射程50m程度と言われるショットガン。
ほぼ銃を撃った経験の無いケイトにこの距離で当たるとは思えない。
それに下手するとクリスもろとも蜂の巣にしてしまいかねない。

―もっと近づかなきゃ

ケイトは、全速力で走った。
絶体絶命のクリスの元へと。
愛するクリスの元へと。

約20m
ほぼ確実に当たるだろう距離まで近づき、ショットガンを構えたケイトの目にクリスの姿が目に入った。
お玉と下ろし金を持って凶悪なゾンビ軍団と戦うクリスの姿が。

斧も、チェーンソーも、大きなナイフも有るのになんでお玉!
バールのようなモノも、フルオート以外の多くの銃さえも有るのになんで下ろし金!

―ああ、もうイイや

ケイトは、静かにその場を立ち去った。
なんか、もうイイやって、今コレを書いてる私と同じような投げやりな気持ちで胸を一杯にしながら。

 

―完

 

 

Choose Your Weapon

何のバイクで日本一周に行くか。
それが大きな問題だ。

『セローで行こうかな』

そんな事を言い出した彼を、私は全力で止めている。
悪い事は言わないからセローは止めておいた方が良いよと。

20年前の北海道ならベストチョイスの一つと言えるとは思う。
ダートも走れて、荷物も積めて、燃費も良くて、ちゃんと整備しておけばあんまり壊れない。
20年前の北海道ならベストチョイスの一つと言えるとは思う。

だが、現在はその北海道でもダートなんてわざわざ行かなきゃ巡り合う事なんて無い、とは必ずしも言い切れないけれど、まぁそんなに無いのは確かだろう。
セローで無ければ、オフ車で無ければダメなシチュエーションてのはまぁそんなに無いのは確かだろうと思う。
8月はカムイワッカにも行けないし、そもそもあの程度ならZZR1400でも走れるしね。

 

確かにメリットは有る。
オフ車のメリットは確かに有る。
でも、舗装道路の長時間移動では圧倒的にデメリットが目に付く。

その最たるものは何と言ってもシート。
2時間乗ったら尻が割れてしまいそうなシート。
あれで日本一周するには、かなりの気合と根性と分厚い尻の皮が必要だ。
道中どれだけ有るか解らない微々たる距離のダート走行の為には辛い選択だ。
犠牲が余りにも大きすぎる。

Vストローム250やヴェルシス250の、パラ2エンジンを持つ250ccクラスの快適なアドベンチャーツアラーも選択出来る現在。
セロー程にダートは走れ無いけれど、圧倒的舗装率の日本をぐるりと回るには、きっと大きなデメリットは無い筈。
パワーや振動の小ささ、積載のしやすさを考えたらメリットは計り知れない。
尻の皮だって全然平気。

サメと戦うのにチェーンソーを選ぶのも、ゾンビと戦うのにお玉を選ぶのも、それは全然自由な話。
勿論、日本一周するのにセロー250を選択するのも、それもまた自由な話だ。
決して大間違いとは言えない話だしね。
少なくともBETAの本気のトライアラーや何の荷物も積めないカフェレーサーで行くよりは遥かに。
それは流石に無理だと思う。
しゃもじで完全武装のテロリストと戦うようなもんだ。

 

まだ先の話なのでどうなるかは解らないけれど、実際にセロー250を買ってそれで日本一周する決断を行うなら餞別に座布団くらい縫ってあげようと思う。
それまでは、余計なお世話だけど全力で反対する。
幾ら超強酸性のカムイワッカには入浴出来なくなったと言えど、尻が可愛そうなので全力で阻止するわ。

 

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy