『COST 327 Motorcycle Safety Helmets』をさらっと読んでみる

ABSやポリカのヘルメットが、グラスファイバーのヘルメットより安全だなんて事は本当に有るんかい?
SHARPやCRASHのテストでは、もしかしたら柔らかいABSシェルはテストに有利に働いて、アライの強固なグラスファイバーシェルはテストには不利なんじゃないの?
なんて思った人も居るかも知れない、って話。

 

このブログは常にロジカルに話を書いていこうと考えている。
つまり、根拠の無い思い込みや野生の勘で話は書かず、論理的なお話を書いていこうと、そう考えてる訳だ。
一応、これでも、こんなんだけど。

 

と言う訳で、ここで紹介したい文書がコレ。
COST=European Cooperation in Science and Technology=欧州科学技術研究協力機構
何かと話題の日本なんちゃら会議みたいな所かな、ちょっと違うかな。
ともかくそこが発行した文書:COST 327 Motorcycle Safety Helmets

この280ページにも及ぶ長大で濃厚な文書のChapter8-179ページにはこんな事が記述が有る。

 

サンプルとして使われたのはAGVのヘルメット。
TYPE1とTYPE2はABS樹脂シェルのARC、TYPE3とTYPE4はグラスファイバーシェルであるR3/R4のECE&SNELL仕様の基本データ。

TYPE1とTYPE2の違いは、緩衝材=発泡スチロールの違い。
シェルは同一でTYPE1は柔らかめ、TYPE2は硬めと成ってる。
TYPE3とTYPE4の違いは、シェルの硬さの違い。
緩衝材は同じでシェルの素材も同一だが、シェルの設計思想が異なる。

その当時、耐貫通性を重視するSNELL仕様はあくまで硬く、衝撃吸収性を求めるECEはややソフトなシェルと成ってた。
お陰でSNELL仕様はえらく重く成ってる。
R3/R4の時代の話だけどね。
なんせこの文書が書かれたのは1995年なんだから、サンプルがやたら古いのはスマンかったな話だ。

 

こんな時代のヘルメットの話。

 

これが実験データ。

左側の青い部分は上の表の各ヘルメットを指している。
TYPE1:ABSシェル&ソフトライナー(緩衝材の密度=40 g/l)
TYPE2:ABSシェル&ハードライナー(緩衝材の密度=55 g/l)
TYPE3:グラスファイバーシェル(ECE仕様)
TYPE4:グラスファイバーシェル(SNELL仕様)

一番下のブロック、12.0m/sのテストではTYPE4がTg-F及びTg-Imp共にTYPE1を上回るが、一方で6.0m/sのテストではTYPE4とTYPE1ではTYPE1の方が良好な結果と成っている。

こんな少ないサンプルの古いデータだけで知ったような顔して語るならば、速度が低い場合はABSシェルの衝撃吸収力は有効に働くと言える。
一方、速度が上がるとやっぱりFRPシェルの方が好結果に成る、と言う想像通りの結果に。
繊維強化熱硬化樹脂のヘルメットでしかレースに使えないのは当たり前な話な訳な一方、スピードの低いストリートでは意外とABSシェルも良好とも言える。

SHARPのテスト条件は最高で8.5m/s。
上記のCOST 327のテストとは条件は異なるが、単純に速度は低いのでSHARPのテストではABSシェルのヘルメットがより良好な結果が出ると言えるのかも知れない。
安価なABSヘルメットが非常に高い結果を出せるのはやっぱりそれが原因で、アライのグラスファイバーシェルのヘルメットでスコアが低いのもそれが原因なのかな。
でもアライのモトクロス用のVX-Pro4(V-クロス4)やフルフェイスのRX-7V、ショウエイのX-Fourteen(X SPIRIT)なんかは普通に良い得点を出してるのもまた事実な訳で。
結局の所はツアークロスはテスト結果はスマンかったな、と言う結果なのだろうね。
カッチカチのシェルでも、モノによっては高スコアをちゃんと出してるのだから。

もう一つ言えるのは、ライナーはどの場合も柔らかい方が結果は良好だと言う事。
一度衝撃を受けたヘルメットはライナー(緩衝材)が変形してるので、外観は問題無さそうでも使用は出来ない、なんて事を良く言われるが、これを見る限りその説は正しいと言える。
柔らかいライナーが効果的に機能を発揮してこそ、ヘルメットの意味が有るのだと言う事が。

 

要するに、柔らかいABSシェルと柔らかい緩衝材を持つヘルメットは低速での衝撃吸収性が高い。
一方で、硬いシェルは低速での衝撃吸収性は乏しいが速度が上がるとABSシェルを大きく上回る、って傾向が言えるんじゃ無いかと。
その辺はトレードオフの関係なんだろうね。
あっちを立てるとこっちが立たない。
旧RX7やアライのローコストモデルのスコアが低いのもそれが原因だろう。
でも、トップブランドのフラッグシップモデルは低速のテストでもABSシェルを上回り、FRHPhe=FIM RACING HOMOLOGATION PROGRAMME FOR HELMETSをパスしてそのままmotoGPでも使える高い性能を持つ。
時代の進化とも言えるし、金の掛け方が違うとも言える。

すなわち、アライを含むトップブランドのフラッグシップモデルは全ての領域で完璧な防御力を持っているが、トップブランドのヘルメットでも旧モデルやグレードダウンするモデルは何処かにウィークポイントが存在する。
廉価品のABSやポリカシェルのヘルメットは、低速域のテストでは良好な結果を出すが、レースでは使えないので高速域ではお察し、って事だ。
結局、良いメーカーの良いヘルメット買っとけ、ってのが結論なんだろう。
身も蓋も無いけれど。

 

COST 327 Motorcycle Safety Helmets

他にも色々と書かれてるので、興味の有る方は頑張って読んで頂けたらと思う。
280ページ超えなんて眩暈がしてくるぜって方は、Conclusions=結論部分だけでも頑張ろう。
面倒なら、まぁ別に。

 

英語の論文なんて読むのなんてまっぴらだ!って方の為に私が代わって読んでみると、Chapter3のConclusionsにはこんな事が書かれてる。

●MAIS(Maximum Abbreviated Injury Scale)が増加するにつれて、頭部外傷を負うリスクが増加する。
つまり頭部の外傷によってMAISは上がる=要するに重症化する。
頭部の外傷はMAIS1の38%からMAIS 3以上の81%に増加する。

●Location of helmet damage was distributed evenly with 26.9% lateral right, 26.3%lateral left, 23.6% frontal and 21.0% to the rear. Other frequently damaged locations werethe forehead 16.1% and the chinguard, 15.4%. Impacts to the crown at 2.2% were lessfrequent.
なんかがちゃがちゃ書いてるけれど、表に直すとこんな具合↓

ヘルメットの損傷箇所

右サイド左サイド前面後部頂点
26.9%26.3%23.6%21.0%2.2%

ヘルメットの損傷箇所(前面)

顎ガード
16.1%15.4%

●頭部衝突エネルギーは頭部衝突速度に比例する

●オープンフェイスヘルメットは、顔面を打たない限りは意外と防御力は高い

●ヘルメットの重量差はあんまり関係無い

まぁこんな感じ。

 

ちなみに速度に関しては、18km/hでAIS1だったのが、50km/hではAIS2~4、57km/hでは5~6へ増加する。
要するに、あんまりスピードは出さない方が良いよ、って事だ。
結局それ。
普通免許のおまけで乗れる原付一種が30km/hなのは、それなりの理由は有るんだよ。
バイクの性能は上がっても、別に人間の頭が強く成ったわけじゃ無いからね。

AIS=Abbreviated Injury Scale
交通事故傷害者の傷害部位、程度を世界的かつ共通的に比較できるように標準化された簡易傷害度スケールの事。
数値が上がる程に重症。

 

機会が有れば、このCOST 327の話をもうちょい詳しく書いてみようかと思う。
機会と、この濃厚な文章を読む気力が生まれたらね。

 

そして、まさかのこの話はまだもうちっとだけ続いたりする。
え?うんざりだって?
はは、それは私も同じ感想だよ。

 

MOTOR CYCLE

Posted by TOMMY