無い袖を振れと無茶おっしゃるエネルギー問題

G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合により、世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに約60%削減する事が目標と決まった。
GHG排出量=Green House Gas=二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量の事。

 

クライメイトゲート事件=気候研究ユニット・メール流出事件ってのがその昔に有って、地球温暖化なんて世界の権力者の陰謀で有りただの都市伝説だったのだと、ほんの一時期その筋のマニア層が色めき立ったのだが、そんな話は今や昔。
地球は温暖化しており、それは温室効果ガスが原因で、今すぐにでも温室効果ガスを削減して地球の温度を下げる事が必須である。
北極の氷が溶けてシロクマさんは住処を奪われ、海水面の上昇により一部の島嶼は水没する。
それは人類が排出した温室効果ガスが諸悪の根源。
地球がもたんときが来ているのだ!
ってのが、世界のコンセンサス。

残念ながら、今さら火山がどうのバクテリアが何だと言っても、もはやこの流れを変えるのは難しい。
幾ら都合の良い証拠を集めて人類の排出する温室効果ガスなんて地球には大した影響はないぜと主張したところで、もはやこの流れを変えるのは容易では無い。
凶悪な宇宙人が攻めて来たらきっと温暖化どころの話じゃ無くなるだろうけど、現状ではこの空気に従う以外に道は無い。
世界、より正しく言えばヨーロッパの価値観と協調する歩みを進めるのならば。

 

2019年のGHG排出量は12億1300万トン
これを後7年で約7億トン以下に、10年ちょっとで約4億8500万トン以下に減らす必要が有る。
無茶おっしゃる。

2017年のパリ協定では、2030年までに2013年比で-26%と定められた。
日本の2013年のGHG排出量は14億1000万トンに対して、2021年では11.5億トンと確実に減っている。
2030年までに約10億トンにまで減らせば良かったので、日本も十分にクリア可能な数値だった。
それで良かった良かった、と一安心なんてさせてくれないのが世界の皆様の手厳しい所。
2019年比の60%削減と無茶をおっしゃるので、日本としては非常に困ったお話な訳だ。

ええい、無い袖は振れぬ事がまだ解らんのか!

 

 

日本の今後のエネルギー政策としては、原子力や太陽光などの自然エネルギーに加え、従来の石炭火力をアンモニア混焼へ転化してCo2排出量を減らすのも柱の一つと成っている。
これは、海外でクリーンエネルギーにより生産した水素と空気中の窒素を原料にアンモニアを生成し、石炭と一緒に燃やしてエネルギーを得る発電方式。
石炭の使用量を減らせるので、その分Co2の排出量も減る、って作戦だ。
アンモニアなんて日本で幾らでも作れるんだけど、化石燃料を使ったらカーボンフリーとは成らないので、わざわざクリーンエネルギーが大量に使える海外で水素を生産する必要が有る。
逆に言えば、これがアンモニアを使う理由、とも言える。

その理由は、輸送のコスト。
アンモニアは-30度で液化するので冷凍マグロ程度の温度で十分なのだが、水素は大気圧なら-253度まで冷却する必要が有るので輸送には大変なコストが掛かるのだ。
燃料とするなら水素をそのまま使うのが都合が良いのだが、あれは輸送も保管も大変なのだ。
だからアンモニアを使うって訳。

で、このアンモニア混焼。
既存のプラントを継続使用できて、Co2も減らせる素晴らしい技術だよと日本国内では持て囃されるのだが、(https://www.jst.go.jp/sip/dl/k04/end/team6-8.pdf)この科学技術振興機構のテキストにも有る様に、アンモニア混合率を増やすとN2Oがガンガン上がっていく、って問題が有る。
亜酸化窒素(N2O)は二酸化炭素の約300倍の温室効果が、しかもオゾン層を破壊する物質でも有ると言われるので、凄いやニッポン様!とG7のみなさまの賛成を得られないのも仕方ない話だ。
この辺りは燃焼技術やガスの回収技術が確立したら解決する可能性は有るのだが、深刻な大気汚染を引き起こすNox濃度の増加の問題も合わせて、道は険しい。

この亜酸化窒素(N2O)
笑気ガスとも言われて歯科治療でも麻酔、或いは精神安定の為に使われる事が有る。
さらにはロケットの酸化剤につかったり、意外な事にケーキに使うインスタントホイップクリームのガスに使われる事も有る。
もちろん、VMax乗りの人にはお馴染みの、ニトロと通称される青いタンクのアレも亜硝酸窒素。
ナイトラスオキサイドシステムをそうそう日常的に使ってる人は居ないと思うけれど、オゾン層を破壊するので出来ればあんまり使わない事をお勧めしたいな。

そもそも、20%混焼もまだ実用化前の段階なので、これだけで後10年ちょいでGHG排出量を現在の1/3近くまで減らすのは不可能なのが実情。
それに加え、原発を止めたドイツも含めて世界の流れは石炭火力発電は廃止する方へと向かっているので、幾ら技術革新が進もうとも石炭火力発電を今後もグイグイ推し進めるのは簡単な道では無い。
問題解決までの時間が無ければ、石炭火力を継続させる事を世界に納得させる時間も無い。
ただでさえ石炭火力を何時止めるんだと急かされてるのが現状なのだから、それを180度転換させるのは容易では無い。
これが20年前の事ならばともかく、2022年現在でこれから石炭火力をリニューアルしますよと言っても、少なくともG7の中では受け入れられるのは難しい。
途上国の旧式石炭火力発電を近代化するのには有効だとしても。

また、G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合では、初めてLNG火力発電の廃止も提言された。
現状は特に影響は無いものの、次回以降は確実にLNGの話も議題に上がってくるだろう。
そうなったら大変だ。
現在の日本の発電量の約60%を占める石炭火力発電とLNG火力発電も廃止しろよと言ってる訳なのだから。

仮にこの先に海外からのLNGの調達コストが上がって、メタンハイドレート採掘技術革新と共に採掘コストが下がって採算ラインに乗ったとしても、残念ながら未来ではそれを利用するのは難しいかも知れない。
そもそもメタンガス自体が温室効果の高いガスなので、幾ら漏らさず安全に採掘しますよと言った所で、世界は納得してくれないだろう。

シロクマなんぞより自分の生活の方が大事なのは多くの人たちが持っている意見だろうけど、残念ながら世界の風潮はそんな利己的な生き方は許しちゃくれない。
だから仮にそこに相対的に安いエネルギー源が大量に有ったとしても、それは使っちゃダメよとの世界がおっしゃるならならば、そうそう簡単に話は進まないのだ。
ならば、今すぐ愚民どもにその叡智を授けてみせろと言いたいのだけど、残念ながらそこまで面倒見てくれないんだよ、これが。
いやぁ、どうするんだろうね、これ。
原発も火力発電も止めろ、でも電気自動車に切り替えろ、なんて言われてもね。

関東なら千葉の海岸や海上に風力発電の風車を大量に立てるとか、関西なら琵琶湖の上にメガフロートを浮かべて太陽光発電するとか。
環境を守るクリーンエネルギーの為に山を切り開く本末転倒な事をするか、それとも地熱に活路を見出すか。
何にせよ、クリーンなエネルギーを得る為には圧倒的に大きなデメリットを甘受するしか道は無い。
日本国民の生活や環境に大きな変化、それも圧倒的に負の面をもたらすくらいの影響が有るのは避けれない。
もはやスーツの袖を切るくらいではどうにも成らないのだが、それでも誰しも自分の身を切るのは勘弁してくれよんってのが本音だろう。
環境にご熱心な朝日新聞様とて、環境の為に新聞発行を止めます!なんて宣言はきっと出来ないだろうしね。
世界トップクラスの発行部数を誇る日本の大手新聞社様が、ただでさえエネルギーを大量に使う紙の使用と印刷と毎日2回の配達を止めたらいくらかの温室効果ガス削減に貢献できるのだけど、それを日本の新聞社様に求めるのは難しい話だろう。
口と体は別人格なのは、私もあなたも高尚で崇高な理念をお持ちの新聞社様とて同じ事なのだから。
それはそれ、これはこれ。

 

何ら小難しい事に責任を負う事の無い只の民間人の立場からすれば、ベースロード電源は石炭火力や原発で、出力調整が必要なミドル電源はLNGを使い、車はこれまで通りにガソリンを使うのがベストな選択だと言える。
ユーザーの面からすればきっとそれがベストなんだろうけども、だが幾ら使い勝手が良く経済的で性能が良くても、今後はそれが許されないのが今の流れ。
パリ協定を離脱したドナルド・トランプのような総理大臣が日本から出てこない限り、不平や不満は幾らあろうともこの流れに従わざるを得ない。
幾ら不経済で使い勝手が悪くても、それが地球環境を守る事には必要で、日本がヨーロッパ様の崇高な生き方に歩を合わせる選択をする以上は抗う事は出来ないのだ。

原子力だろうと石炭火力だろうと、地熱や太陽光やバイオマスにせよ、全ての発電方式には否定する意見は存在し、どれも問題点が有るのが事実だろう。
だが、出来ない理由を並べても仕方無いので、より正しいだろうと考えられる道を選んで進むしか道は無い。
世界と同じ方向を向いて進むのなら、同じ方向へ進むしか道は無い。
それが嫌なら、世界の進む道を自分たちの望む方へと軌道変更させるか、或いは自分が世界とは違う方に進むかの2つしか無いだろう。
何にしても道は険しい。

だから今後は、そこら中がソーラーパネルで埋め尽くされ、海岸には鬱陶しい風車が乱立し、河川は小規模水力発電が至る所で行われ、自動車の充電に数時間待ち、夏と冬は停電が日常と成り、製造業は壊滅し、それでも高い税金とエネルギーコストを負担する世の中に成る可能性は高いかもね。
台風の度にソーラーパネルが、場合によっては風車も時々飛んでくるけど辛抱しろよ。
環境の為ならみんなが仲良く不幸に成る、そんな未来。
それが世界の選択で有り、それが日本の選択だ。

もっとも、日本のエネルギーコストが現状の10倍くらいに成ったら、鉄鋼を含む日本の産業の多くが消滅するだろうから、意外とそれで解決するのかも知れないけれどね。
その時、日本人はどんな生活を送ってるのかはさておきとして。

 

うちはうち、他所は他所やでと言い切れるお母さんが日本の総理大臣と成れば話の流れは変わるかも知れないが、八方美人を取り繕って波風を立てない事を是とするならば、未来のエネルギー政策は中々にしんどい。
朕惟フニ曩ニ世界ノ平和克復シテ.....
と、緑の党のおばさんを便所のスリッパでブン殴って席を立つ、90年前のデジャブを感じさせる覚悟が有るなら話は別だが、戦後の日本がそうで有ったように世界の皆様と歩みを共にするのならば、今後のエネルギー問題は結構厳しいって事を覚悟しておく事は必要かも知れない。

要するに、好きなバイクは今の内に乗っとけ、って事なのかもね。
10年後なんて、内燃機関はどれだけ税金取られる事に成るか分かったものじゃないのだから。

 

MOTOR CYCLE

Posted by tommy