超能力の無駄使い

まだミニに乗ってた頃の事。
かれこれ随分昔の事だ。

神奈川県か静岡県か或いは愛知県か?
ともかくその辺り、国道一号線を走ってた時の事。

まだセルフスタンドなんてのが無かった当時。
その頃私がスタンドに入って言う台詞は大体一緒。

『レギュラー8分目で』
こんな台詞。

と言うのも、私のミニは満タンにしたら漏れなくガソリンが漏れると言う中々スリリングな車だったのだ。
燃料コックをパッキンもろとも新品に交換したものの直らなくて、タンク本体の問題なのか、それともコックとの相性の問題なのだろうか?或いは仕方無いのか?と結構悩まされてた。
ともかく、ガソリン漏れがどうにも直らないので、仕方なくガス8分目でお茶を濁してたのだ。

*ちなみにその後、著名なショップに持ち込んでちゃんと直したよ。

冬の寒い夜だったと思う。
夏は暑いくせに冬はとても寒い私のミニに、真冬のナイトドライブは骨身に染みる。
私はガソリンスタンド内のカップコーヒーを飲むべく、給油を済ませて隅っこに移動させた車から降りた。

『休憩の間に無料点検しましょうか?』

ガソリンスタンドの店員のお兄さんによる営業トーク。
煩い向こう行けキドクラッチで泣かすぞ!
って言うのは容易いけれど、まぁ無料点検してくれるならまぁイイかと快諾した。

コーヒーを飲むべく自販機前で小銭を探してると先程のお兄さん。

『あの、ボンネットのオープナーは何処に有るんですか?』
と、まさかのお問い合わせ。

サニーやカローラ程に一般的では無いものの、決して珍しく無いミニって車。
ガソリンスタンドで働いてて、点検してる人ならボンネットの開け方知っててもおかしく無いと思うんだけどね。

特に何もボンネットに関しては改造してない私のミニ。
通常通り外からグリルの穴に指突っ込んでゴニョっとレバーを操作してボンネットを開けた。
別に難しくも、そして特に珍しくも無い。
車内を幾ら探してもリリースレバーは見当たらないだけで。

君はミニのボンネットの開け方も知らないのに点検すると言い出したのか?
等と思いつつも自分でボンネットを開けた。
永井のフルトラとスプリットウェーバーが美しいミニのエンジンがガソリンスタンドのライトに照らされた。
嗚呼、とても美しい。

『ありがとうございます、それでは点検させて頂きますので….』

と、スタンドのお兄さんは夜遅くに大きな声でハキハキと。
とてもうるさい。

寒いので休憩室内に閉じ篭りコーヒー飲みつつ、大丈夫だろうかと窓の外に居る自分の車と、そのエンジンルームを覗き込むお兄さんを眺めていた。

しばし後、お兄さんがスタスタと歩いてやって来た。
コーヒー飲む私の元へとやって来た。

『ウォッシャー液とラジエーター液は大丈夫でした』

ほーほー、そりゃそうだろう。
今や自分の車のボンネットなんて開けたこと無いけど、当時はキャブのセッティングからバルブクリアランスからちゃんと整備してたから問題ないだろう。
一度燃えかけた事は有るけど基本的には問題無い筈だ。
多分ね。

『でもオイルはちょっとくたびれてますね』

と、お兄さん。

お兄さん、見ただけで、触っただけでオイルの劣化が解るのか?
それは凄い。

でも残念ながら当時はかなり頻繁にオイル交換してたのだ。
ってのも、当時変な車乗って遊んでた友人の一人がそこそこレースで活躍する人だったりしてね。
その人、一人じゃ使い切れない程のオイルを何処かから供給して貰ってたのだ。
好きに使ってイイとの話だったので、まさに湯水のごとく使ってたのだ。
それも結構高いオイルを。

だから劣化なんてありえないんだけどもなぁ。
と言うか、そもそもオイルなんてちょっと走ったら黒く成るんだから、そんなの触っただけで解るとは思えない。
余程に経験豊富なメカニックか、或いは超能力者か。
詐欺師とは言わないけど。

『ああ、要らないよ、先月換えたばかりだから』

私は素っ気無く返答した。
いい加減な事言うなよコラって気持ちを抑えつつ。

するとお兄さんは再び口を開いた。

『バッテリーなんですが、何時ごろ交換されましたか?』

と。

オイルはタダで貰ってたけど、バッテリーはタダではくれない。
そりゃそうだ。
正直、バッテリーなんて何時換えたかなんて解らない。
正直、わからんわ。

『ん~~何時だろう?覚えて無いですわ』

と、答えた私を見て、お兄さんはニヤリと笑みを浮かべながら、少々血圧上げつつ口を開いた。

『見た感じ、随分使われてるようなのでそろそろ交換された方が安心かと思いますよ。
冬場はバッテリーが弱るのでこのままでは危険かも知れませんよ』

と。

何だと?
このお兄さん、バッテリーを見ただけで大丈夫かヤバいかが解るのか?
それは凄い。
オイルなら、100歩程譲れば有るかもしれない。
見ただけで、何キロ走ったオイルか解るかも知れない。
ただバッテリーはなぁ。
どうなんだろう。

本体の汚れとか、コネクタの腐食具合で判断出来るのだろうか?
手をかざしただけでサルフェーションを感じ取れるのだろうか?
それは凄いな。
GSユアサにも居ないかも知れない目利き職人じゃ無いか。
或いは超能力者。
詐欺師とは言わないけど。

『見た感じ??』

私は疑問を呈した。
大いに疑問をぶつけた。
私は大いなる疑問を投げかけまくった。
見た感じって何やねんと。

『おいお兄さん!いい加減な事言ってんじゃ無いよ!おいお兄さん!』

私は語気を強めながら、軽く怒ってみた。
0.6JTLくらいの怒りを込めてみた。
おい兄ちゃん、ふさけた事言ってんじゃ無いぞと。

*1JTL=獣神サンダー・ライガー一人分の怒りっぷり具合

ご存知無い方に書いておくが、ミニのバッテリーは通常はトランクに積んでるのだ。
エンジンルームには積んでない。
そう、リヤのトランクの中、丸出しのガソリンタンクのすぐ近くに、ホイっと気楽にバッテリーが置かれてるのだ。
後から追突されたら爆発しかねないスリリングな設計。
ビームサーベルところか、頭部バルカンの直撃でさえ即死するジオン軍の戦艦のブリッジ並みにスパルタンな設計だが、ミニはこんな設計なんだよ。
ボンネットを幾ら覗き込んでもバッテリーなんてどこにも見えないよ。
サンコンの視力をもってしても見えないよ。
本物の超能力者じゃなきゃ見えないよ。

『おいお兄さん、いい加減な事言ってんじゃ無いよ』

頭からコーヒーをぶち撒いてやりたく成る気持ちをぐっと抑え私は....以下省略。

今話題のPC屋の話にしても、その他電気店のやたらと高額なサービス料金にせよ、良く解らない人から上手いこと金を引っ張り出すのが商売なのはごもっともだろう。
世の中、何でもかんでも自分で出来る人ばかりじゃ無いし、何でもかんでも自分で出来たら幾つ物商売なんて成り立たないんだから。
みんながパンク修理出来たら自転車屋は大変なのだから。
各家庭で秘伝のフライドチキンが作れたら、カーネル・サンダースも肩を落とす。
少佐に格下げだ。

だから、有る人は簡単だけど有る人には簡単では無い事を、真っ当な対価を得て代わりに作業する事に何ら問題は無い。
スマホのアプリを有料でインストールしてくれる人が居なくなったら困る人も沢山居るのだから。
テレビとレコーダーとのHDMIケーブルを接続してくれる有料出張サービスがなくなったら困る人もきっと居るのだから。
イケアの家具の組み立てとか、扇風機の羽の掃除してくるサービスが無くなったら困る人もきっと居るのだから。

それはそうなのだけど、良く分かって無い人間を騙して金を巻き上げようとする人間や企業店舗には大きな問題がある。
PC屋にせよガソリンスタンドにせよ床下換気扇にせよ、大きな問題が有るだろう。

もっとも、問題あるからと怒りに任せて火炎瓶を投げ込むのはさらにもっと大きな問題が有るので自重せねばならないけど、ライガーボムくらい食らわせるのはギリギリセーフじゃ無いかなぁ?とは思う。
私の背筋力では難しいモノが有るけれども。

ともかく、詐欺師と断罪しても問題は無いだろう、そんなガソリンスタンドの兄ちゃんと一悶着。
気持ちの上では非常にイライラさせられたものの、物理的には被害は無かったのでまぁイイかと。
他に騙される人が出ない事を祈るけど、他の人の世話まで出来ないので自己防衛して頂きたいと思う。

そんなゴタゴタが有った、ちょい後の事。
さらに寒さが増した真冬の朝、セル回したら
『ヌオッポ...ヌオッポ...』
って、セルスターターモーターが言い出して、あら本当にバッテリーが死んじゃったじゃないかと、ちょっとフフって笑った。

奴はやはり超能力者だったのか。
そりゃ、ちょっと悪い事したかも知れないけども、その力はもうちょいと別の事に使うのは如何だろうか?
と思ったりはする。

CAR

Posted by tommy